狂気のサクラ
自宅へ入ると、母が遅かったね、と話しかけてきた。
「さゆりにお祝いしてもらってた。冷蔵庫入れておいて」
それだけ言い、母にケーキの箱を渡した。外が寒かったからか、寒気が止まらない。
つい先日物置から出したばかりの灯油のヒーターの電源を入れる。少しだけ不完全に燃えた臭いがしてから、小さく音を立て起動しはじめた。
さゆりからもらったプレゼント、まず筒の方を開けてみる。予想は付いている。私の好きなキャラクターの来年のカレンダーだ。
それからもうひとつの包みを開けてみる。
すりガラスのアロマポットだ。ゼラニウムと書いた小瓶も一緒に入れられている。ポットの底には水色のキャンドルが入っていて、ポットの蓋は少し窪んでいる。ここへオイルを垂らすのだろう。オイルの瓶を開けて匂いを嗅いでみた。
何だろうか、この匂い。甘くはない。スパイシーと言うのだろうか。刺激が突いてくる。アロマオイルと聞けば甘い香りを想像するが、さゆりがこの香りを選んだことには意味があるに違いない。
『ゼラニウムのアロマオイル』と調べてみる。
ショックを受けた時など精神が混乱している時に効果がある、と記されている。さらに調べてみると失恋の痛みに効果的とも紹介されていた。
火を付けてみようとライターを探す。さゆりたちと花火をした時に使ったライターが机の中にあった。
カチリと火を付けた。空気中の酸素の燃える音がかすかに聞こえた。その明かりはあの日の薄暗い彼の部屋と重なる。
キャンドルの芯に点火するつもりだったけれど揺れる炎を見ていると妙な気持ちになってきた。
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