狂気のサクラ
翌日、私は早速行動に出た。望みは薄い。上手くいくことを祈りながらダイアルを押した。
「お電話ありがとうございます。有楽球場前店今井です」
1コールでいかにも余所行きの女性が電話口に出た。
「あの、土日祝日のみのアルバイト募集していますか?」
私は求人も出ていない『有楽』にアルバイトの問い合わせをした。
「今責任者が不在ですので、後ほど連絡致します。お名前と連絡先頂戴できますか?」
そう問われとりあえず門前払いされることなく望みを繋いで電話を切った。
彼は平日のみしかアルバイトはしていないと聞いていた。運良く働けたとしても会える可能性は低い。それでも繋がりは持てるし、きっといつか会える時があるはずた。
すぐに折り返しの電話があり、週末に面接の約束までは取り付けた。
前日は期待で目覚めが良かった。
さゆりにもらったアロマオイルは空になったけれどこの匂いで私は彼を思い出すだろう。いや、忘れてなどいない。
その日はとても寒く、入り口の桜の木は枯れ寒そうだった。それでも両手では抱えきれないだろう大木で『有楽』の開業よりもずっと前からここに植えられていたのだろう。この桜から見れば私の人生など短く、どうでも良い悩みを抱えているのだろう。
今日は『有楽』のアルバイト初日だ。面接を受けるとまさかの即採用ですぐに働けることになった。
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