狂気のサクラ
車の中で待っていると紺色の軽自動車が駐車場に入ってきた。きっと従業員だ。車から降りた若い女性が抱えている赤いシャツは『有楽』のユニフォームに間違いない。
「おはようございます」
慌てて後を追った。
「あ、香川さん？」
振り向いた彼女は私の名を知っていた。綺麗な黒髪のロングヘアで色が白くとても美人だ。私は今まで出会った女性の中ではさゆりが1番綺麗だと思っていたがさゆりに負けないルックスだ。話し方や雰囲気もどことなくさゆりと似ている。
「はい、よろしくお願いします」
「よろしく、今井です」
彼女はしゃがみ込んで自動ドアの鍵を回し手でドアを開けた。私も反対側のドアを開けた。中に入ると静かな店内で靴音が響いた。
「ここが事務所ね。一応ノックして入ってね。今は確実に誰もいないけど」
今井は笑いながら事務所の扉を開け電気をつけた。ドアを開けてすぐにタイムカードが並んでいてその隣に打刻機がある。
「あった、あった」
今井が私のカードを探して渡してくれた。今井を真似して打刻し、カードを戻しながら彼のカードを探した。
藤原悠樹、その名を見つけどきりとした。今井に気付かれないようカードに触れた。彼と同じ物に触れる。ただそれだけでも嬉しくて。それだけでバイトを始めた意味があったと思えた。
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表紙・目次

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