狂気のサクラ
金曜日は朝から嬉しすぎて、午後から半休をとって早退した。良い匂いの入浴剤を入れて湯船に浸かり、念入りに髪の毛を洗った。
早く会いたい。

待ちきれずに彼の家の近くの『有楽』まで行った。駐車場で桜の木を眺めていると、風呂上がりだというのにじわりと背中に汗をかいてしまう。
19時を過ぎてから、来ていいよ、と連絡がきた。私は急いで自転車を走らせた。
インターフォンを鳴らし、緊張しながら彼を待った。
「早かったね」
玄関を開けた彼は笑いながら言った。急いで来たことを見透かされている。でも、そんなことはどうでもいい。早く会いたかった。
またテーブルの前に座った。彼が冷蔵庫から出してきたペットボトルのアイスティを一緒に飲みながら、並んでテレビを見た。
私は彼女になれたのだろうか。
ずっと聞きたかったことを聞いてみる。今なら聞ける。
「悠樹くん、彼女いるの?」
「え?いるわけないじゃん」
彼は笑いながら言った。
今この場に私がいて、好きだと言ってくれているのに他に彼女がいるなんて考えたくない。でも本当の私は、凛ちゃんが彼女だよ、と言ってほしかった。
「私は彼女になれますか?」
「ん?俺には勿体無いな」
そんな曖昧な言葉で答えた彼。はぐらかされたのだろうかと不安が過ぎる。
「シャワー浴びてくる」
彼は私の頭を撫でてから立ち上がった。
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