狂気のサクラ

苦言

何となく嫌な予感が消えないままその日は連絡できずにいた。きっと彼の方から連絡してくれる。ちゃんと付き合おうと言われたわけではなかったけれど、私は彼を信じていた。
翌朝、昨日の帰り際が夢に出てきた。目が覚めて、どこにいるのか分からなくなった。意識がはっきりすると、自分の部屋へ居ることをまず理解した。そして夢ではなかったと思い知る。
携帯を確認する。彼からのメッセージはない。
そんなはずはない。
あんなに好きだと言ってくれたのに。あんなに抱きしめてくれたのに。
いや、そんなはずはない。そんなはずはない。
きっと今日は連絡があるはずだ。そう良い聞かせながらも嫌な予感は消えない。まだ彼の囁きも思い出せる。首筋の唇の感触も残っている。あんなに何度も好きだと言ってくれた。
そんなはずはない。
そんなはずはない。

それから1週間が過ぎても、彼からの連絡はなかった。勿論私の方から連絡をした。
『会いたい』
『連絡下さい』
何度送っても既読にすらならない。電話をかけてもいっこうに出ない。
そんなはずはない。
そして2週間、3週間が経っても彼と連絡は取れなかった。こない電話を待つ毎日はたまらなく辛く、1日1日がとても長く感じた。他のことが何も考えられず空腹感すら感じなくなっている。
毎日彼の夢を見る。いや、夢ではない。私の意識が眠りに落ちるまで彼で埋まり、目を覚ますと同時に彼が浮かび、悪い夢でも見ていたような不安な気持ちで朝を迎える。そして目を覚ますと押し寄せてくる絶望感。夜は何とか眠りにつけるのに、目覚めた時は言葉にできないほど虚しくて。無意識に彼のことを考えてしまっている。この失望感は淋しい、悲しいなんて言葉では片付けられない。泣いてしまいたいけれど、それで何が変わるというのだろうか。
彼に会いたい。ただ会いたい。
< 9 / 47 >

この作品をシェア

pagetop