傲慢なアルファは禁忌を犯して最愛を奪う~腹違いの兄との息子に18年後さらに襲われる女オメガの話~

砕かれた憧れ(本命以外との性描写注意)

 自分の母は父の妾だったこと。女のオメガは特に強いアルファのものにされてしまうから、兄の勧めで男のベータのフリをしていたことを加山君に話すと

「確かに。女のオメガはいい男と付き合えて勝ち組だと言われる一方で、本人の意思を無視して無理やりものにされるって話もよく聞くよな」

 未婚ならまだしもベータの男性と結婚した女オメガが、横恋慕した男アルファに強引に奪われてしまうケースもあるそうだ。

 加山君は気の毒そうに理解を示すと

「かくいう俺も、まんまと女オメガのお前に惹かれてしまったし……」

 少しやましそうに呟いたが

「でも俺はお前がオメガだからじゃなくて、お前だから好きになったんだと思う。アルファとオメガは惹かれ合うと言っても抑制剤を使っていると、誰がアルファでオメガかなんてほとんど分からないし。だからこそ俺も、お前が今までベータだと信じていたわけだし」

 真剣な目で私を見つめて

「性別がどうこうじゃなくて、あくまでお前だから好きなんだって信じて欲しい」

 私が女オメガだと知ったら加山君は

『道理で惹かれるわけだ』

 とただ納得するのかと思っていた。男と女。アルファとオメガは一般的に惹かれ合うものだから。

 でも私は生まれつきの性だけで結びつくのは、あまりに動物的で虚しいと思っていた。

 重要なのは性別や肉体の相性であって、その人自身の心や在り方はどうでもいいのかって。

 だから加山君が「お前だから」と言ってくれたのがとても嬉しくて

「う、嬉しい。僕も本当は君のこと、友だちじゃなくて恋愛的な意味で好きだったから」
「ほ、本当に?」

 彼の問いに、私は「う、うん」と頬を染めながら頷くと

「僕はずっとアルファはオメガから奪う者だと思って怖かったんだ。他のアルファは今も怖いけど、君のものにならなりたい」

 密かな願望が思わず零れた。言った後で、加山君はそこまでの感情じゃないかも。ものにされたいなんて重いかもとヒヤッとしたが

「ああ、もうっ! お前はもうっ!」
「な、何?」

 突然の大声にビクッとする私に、加山君は両手で顔を覆いながら

「可愛くてズルい……。食べてしまいたい……」
「え、エッチなことをしたいの?」

 私の問いに、加山君はコクンと頷きながら「思春期でゴメン……」と小声で謝った。

 きっと同じアルファでも兄さんなら、自ら『もの』にされたがる獲物に、照れやためらいなんて感じない。

 強者の当然の権利として、強引かつ 傲慢(ごうまん)に奪うだろう。

 私はどこまでもアルファらしくない加山君の普通さが、かえって好ましくて

「あの、僕こういうのはじめてだから、いきなりは無理だけど。キスくらいならいいよ。口とかじゃなくて、ほっぺとかオデコなら。ちょっとしてみる?」

 高校生なのに子どもっぽいかなと少し恥じらいながら聞いてみる。加山君が「い、いいの?」と乗り気なので、そのまま少しだけ触れ合ってみた。

 加山君の腕に抱かれて、お互いの頬や額に口づけ合う。恋人同士の甘い触れ合いに胸が高鳴る。

「お前に、こんな風に触れられるなんて夢みたいだ」

 熱っぽく私を見下ろす加山君を、私も目を潤ませながら見上げて

「僕も夢みたい。ずっと君に、こんな風に触れて欲しかった」

 彼の熱い手に指を絡めて、ギュッと握りながら言うと

「ちょっ、おま……」

 加山君は動揺したようにビクッとすると、なぜか苦しそうに体を折った。

「加山君?」

 私は最初、彼の反応の意味が分からずに戸惑った。だけど、すぐに

「っ」

 心臓がドクンと大きく鼓動し、体がカッと熱くなる。

 それは抑制剤によって抑え込まれているはずの衝動。アルファとオメガを、ただの動物にしてしまう発情だった。

 加山君の発情に当てられたのか。それとも私が先だったのか。抑制剤を飲んでいるはずなのに、予期せぬ発情に襲われた加山君は

「か、加山君、待って! 今はダメ!」
「無理だ。待てない。いま欲しい」

 加山君は先ほどまでの純情さが嘘のように、私の制服を脱がせると胸に巻いていたサラシも強引に剥ぎ取った。

 裸の胸がプルンと零れる。あらわになった乳房を見た加山君は、犬みたいにはっはと息を荒げながら

「本当に女だったんだ。すげー綺麗で美味そう」
「待って、待って。やだ、やだっ」

 私は泣きながら加山君に抵抗しようとした。しかし男のアルファに力で敵うはずもなく、両手首を掴まれて畳に押さえつけられ胸に吸い付かれる。

 加山君は私の中に突き入れるのを待ち切れないように、勃起したものをズボン越しに擦りつけて来る。

 加山君は私の好きな人で、しかもアルファだ。ベータの女の子ならともかく、オメガの私なら欲しくなるほうが自然なはず。

 しかし意外にも私は、この状況に本気で恐怖していた。

 多分、彼が加山君という人ではなく、アルファという雄になってしまったから。理性を失くした雄に、雌として犯されることが嫌だった。

「待って。本当に待って。加山君、やだ……」

 とうとう加山君にズボンとパンツを脱がされる。全裸で泣く私を見おろして、加山君は気の毒がるどころか酷薄に微笑んだ。

 オメガを食らうことは、アルファの悦びなんだと言うように。

 加山君の 豹変(ひょうへん)に、アルファとオメガの関係を理解した瞬間。

 離れの戸をガラッと開けて誰かが入って来た。それを認識すると同時に

「グァッ!? い、いきなり何しやがる!?」

 私におおいかぶさっていた加山君は、侵入者に横っ腹を蹴飛ばされて転がった。

 発情したアルファは攻撃性が増す。普通なら交尾を邪魔されたアルファは、激怒して相手に襲いかかるらしいが

「それはこちらの台詞だ。警察に突き出されたくなかったら、その粗末なものを仕舞って、さっさと失せろ」

 兄は氷のような目で加山君を見下ろすと、高圧的に命じた。自分よりも上位のアルファの重圧に晒された加山君は

「うっ……」

 血の気が引いたように青ざめると、それこそ犬のように尻尾を巻いて離れを出た。

 兄は皮肉な笑みで、加山君の背を見送ると

「実に可愛い小犬君だったな。お前が無防備に気を許すだけはある」
「に、兄さん、どうして?」

 制服で体を隠しながら尋ねると

「どうしても何も女オメガと男アルファを密室で2人きりにすれば、たいがいこうなる」

 兄さんは私のそばに膝を付くと、頬を濡らす涙を指で拭いながら

「前に言っただろう? アルファやオメガは人よりも動物に近い性だ。しかし口で説明したところで、女のお前は自分と好きな男の獣性なんて認めたがらないだろう」

 だからあえて泳がせたのだと言う。自分たちが非常に動物的な性であることを、実地で分からせるために。恋愛に対する私の愚かで幼稚な憧れを砕くために。

 単に襲われたからだけじゃない。兄が来たら加山君は、さっさと逃げ出した。

 彼の発情を解いたのは「警察に突き出す」という脅し文句ではなく、自分より上位のアルファへの本能的な恐怖だった。

「兄さん。私、変なんだ。ちゃんと抑制剤を飲んでいるのに体が熱い……」
「抑制剤で抑えられるのは、生理的な発情だけだ。精神的な発情は薬では防げない」

 加山君と私は途中まで、自らの意思で求め合った。どちらが先か分からないが、片方の発情がもう一方の発情を (うなが)し、相手が消えた後も治まらないでいる。

「じゃあ、私、発情しているの? なんで兄さんは平気なの?」
「平気じゃないさ。俺もアルファだからな」

 その時、私ははじめて氷のような兄の顔が欲情に赤らむのを見た。

 兄は離れの戸を閉めて鍵をかけると

「に、兄さん!? やっ、なんで!? 兄妹なのに!」
「何度も言っただろう。俺たちはケダモノだ。人間の道理になど二度と従わない」

 今度は助けが来なかった。私はそのまま兄に犯された。

 最初は加山君の時と同様に「こんなの嫌だ」と泣いて嫌がった。

 だけど、これも獣の本能なのだろうか?

 相手は腹違いとは言え、実の兄なのに。加山君の時と違い、アルファの中でも最上級に強く美しい雄に、征服されることを喜ぶ雌の自分が居た。


 後で知ったことだけど、兄は最初から私を自分のものにするつもりだったようだ。

 私に男のベータのフリをさせていたのも、妹の身を案じてではなく、他の雄に手を出させないため。

 それから兄は本格的に、私を囲うために学校を辞めさせた。加山君とはあれ以来、会ってないし、連絡も無い。

 けれど悲しいくらい、どうでも良かった。初恋だったのに。とても好きだったはずなのに。

 襲われたことよりも多分、他のアルファに睨まれて尻尾を巻いて逃げ出した加山君に、どうしようもなく冷めてしまった。兄の言うとおり、私たちは全く動物的だった。

 男か女かはどうでもいい。せめてベータに生まれたかった。

 二次性の影響を受けないベータなら、自らの獣性に振り回されて、これほど虚しい気持ちにはならなかっただろうに。
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