傲慢なアルファは禁忌を犯して最愛を奪う~腹違いの兄との息子に18年後さらに襲われる女オメガの話~
最終話・このひと時の幸福のため
もし私たちが動物なら、食われた側は絶命している。けれど私たちは人間の男女なので、食われても死なない。それがどんな地獄を生むかと言うと
「まだ震えてんの?」
事後。私たちはお互い裸のまま、同じ布団に横たわっていた。征宗は自分に背を向ける私を、後ろから抱きしめながら
「俺と親父、どっちが良かった?」
罪悪感を刺激する耳打ちに、私は半泣きで「やめてぇ……」と返した。
腹違いの兄に続いて実の息子にまで、むざむざ食われてしまう私に死ぬ勇気があるはずもない。
しかし自分を食らった相手に事後も寄り添われる恐怖を味わうよりは、動物たちのように天に召されたかった。
征宗は18歳らしからぬふてぶてしさで、私の頭を撫でながら
「血の繋がりなんて気にすることないのに。親子や兄弟でやっちゃダメなんて人が決めたルールだろ。自分の本能に逆らってまで従う必要なんかない」
「血の繋がりだけじゃなくて、相手の意思を無視することが犯罪だよ……」
無法すぎる征宗の倫理観に、親として流石にツッコむ。
しかし征宗は「うん。犯罪だよ?」と、むしろ愉快そうに笑って
「文句があるなら警察に行けば? 腹違いの兄との子どもに、さらにレイプされましたってさ」
「うぅ~っ!」
他人に言えるはずがないし、この最悪のアルファを産んだのは私なのだから、何をされようが自業自得だった。
「悔しそうに泣いちゃって可愛いね。でも残念ながら親父と違って俺はアンタが本命だから、逃げられると思わないほうがいい」
征宗はニヤニヤしながら、私のうなじを指でなぞって
「もう俺のものだって印もついたことだし、これからは俺のために着飾って、一生俺だけに抱かれてよ」
この子はいつからこの結末を目指していたのだろう。
『運命の番』についてはじめて話した時には、すでに私を奪う決意だったようだが。
『アイツが俺に跡を継げと言うなら、そうしてやる。お望みどおり誰よりも強く賢くなって、アイツの持ち物全部奪ってやるんだ』
だとしたら、あの台詞も勢い任せの啖呵ではなく、いつか成し遂げるという明確な意志だったのだろうか?
もしかして兄の失踪も、本当は当人の意思じゃなくて、この子が関与して……?
にわかに疑惑を持った私は、顏だけ後ろを振り返り
「……あの、兄さんのことだけど」
「アイツは自殺だよ?」
征宗は食い気味に答えると
「こちらから探すまでもなく、アンタのほうからのこのこ現れたみたいに、いつか消そうと思っていた邪魔者が自ら消えてくれることもあり得る。そうだろ?」
「俺は強運だからね」と笑ったこの子が、どこまで本気か分からない。
まさか実の父を手にかけてまで、私を奪ったとは思いたくないけど。
そう考えた時。ふと昔の会話を思い出した。
『殺して奪って欲しかったか? 自分の父から、お前の母を』
そんなことをしていいはずがないと、私は黙り込んだ。だけど兄は
『俺はそうすれば良かったと後悔している』
その後悔を征宗にも告げたそうだ。運命の番を逃したアルファの孤独は永遠に埋まらないと。
単なる偶然かもしれない。だけどもしかしたら兄は、こうなることを望んでいたのかもしれないと、ふと思った。
『君は君を欲する人に、正しく奪われるといいね』
母が昔、自分が叶えられなかった願いを、娘の私に託したように。
それは私自身の望みでもあったことを思い出して
「……なんで私なの? オメガは他にもたくさん居るのに」
布団の中で征宗と向かい合う。再会してから、ほとんどずっと食えない笑みを浮かべていた征宗は、ふと真顔になって
「アンタがいちばん分かっているはずだろ。子どもを産ませるだけなら誰でも良くても、心を満たせるのは1人だけだ」
優しく私のうなじを撫でると
「アンタの首を噛んで確信した。他の誰が間違いだと言っても、俺はアンタを得るために生まれたんだって」
幸福に満ちた声で言うと、温かな腕で私を引き寄せて、そのままギュッと抱きしめた。
私とこの子の関係は、明らかに誰にも祝福されない。自分さえ肯定していいものではない。
……それなのに、なぜだろう。
ずっと焦がれていた光に、ようやく触れた気がしたのは。
征宗の腕に抱かれながら、ふと涙が込み上げた。けれど、それは明らかに絶望や自己嫌悪による涙では無かった。
私は征宗と違って弱くて、他人が決めたルールなんて関係ないとは割り切れない。
だけどこれから、この子の腕に抱かれるたびに思うだろう。他の全ての痛みや苦悩と引き換えにしても、このひと時の幸福のために、きっと私も生まれたのだと。
「まだ震えてんの?」
事後。私たちはお互い裸のまま、同じ布団に横たわっていた。征宗は自分に背を向ける私を、後ろから抱きしめながら
「俺と親父、どっちが良かった?」
罪悪感を刺激する耳打ちに、私は半泣きで「やめてぇ……」と返した。
腹違いの兄に続いて実の息子にまで、むざむざ食われてしまう私に死ぬ勇気があるはずもない。
しかし自分を食らった相手に事後も寄り添われる恐怖を味わうよりは、動物たちのように天に召されたかった。
征宗は18歳らしからぬふてぶてしさで、私の頭を撫でながら
「血の繋がりなんて気にすることないのに。親子や兄弟でやっちゃダメなんて人が決めたルールだろ。自分の本能に逆らってまで従う必要なんかない」
「血の繋がりだけじゃなくて、相手の意思を無視することが犯罪だよ……」
無法すぎる征宗の倫理観に、親として流石にツッコむ。
しかし征宗は「うん。犯罪だよ?」と、むしろ愉快そうに笑って
「文句があるなら警察に行けば? 腹違いの兄との子どもに、さらにレイプされましたってさ」
「うぅ~っ!」
他人に言えるはずがないし、この最悪のアルファを産んだのは私なのだから、何をされようが自業自得だった。
「悔しそうに泣いちゃって可愛いね。でも残念ながら親父と違って俺はアンタが本命だから、逃げられると思わないほうがいい」
征宗はニヤニヤしながら、私のうなじを指でなぞって
「もう俺のものだって印もついたことだし、これからは俺のために着飾って、一生俺だけに抱かれてよ」
この子はいつからこの結末を目指していたのだろう。
『運命の番』についてはじめて話した時には、すでに私を奪う決意だったようだが。
『アイツが俺に跡を継げと言うなら、そうしてやる。お望みどおり誰よりも強く賢くなって、アイツの持ち物全部奪ってやるんだ』
だとしたら、あの台詞も勢い任せの啖呵ではなく、いつか成し遂げるという明確な意志だったのだろうか?
もしかして兄の失踪も、本当は当人の意思じゃなくて、この子が関与して……?
にわかに疑惑を持った私は、顏だけ後ろを振り返り
「……あの、兄さんのことだけど」
「アイツは自殺だよ?」
征宗は食い気味に答えると
「こちらから探すまでもなく、アンタのほうからのこのこ現れたみたいに、いつか消そうと思っていた邪魔者が自ら消えてくれることもあり得る。そうだろ?」
「俺は強運だからね」と笑ったこの子が、どこまで本気か分からない。
まさか実の父を手にかけてまで、私を奪ったとは思いたくないけど。
そう考えた時。ふと昔の会話を思い出した。
『殺して奪って欲しかったか? 自分の父から、お前の母を』
そんなことをしていいはずがないと、私は黙り込んだ。だけど兄は
『俺はそうすれば良かったと後悔している』
その後悔を征宗にも告げたそうだ。運命の番を逃したアルファの孤独は永遠に埋まらないと。
単なる偶然かもしれない。だけどもしかしたら兄は、こうなることを望んでいたのかもしれないと、ふと思った。
『君は君を欲する人に、正しく奪われるといいね』
母が昔、自分が叶えられなかった願いを、娘の私に託したように。
それは私自身の望みでもあったことを思い出して
「……なんで私なの? オメガは他にもたくさん居るのに」
布団の中で征宗と向かい合う。再会してから、ほとんどずっと食えない笑みを浮かべていた征宗は、ふと真顔になって
「アンタがいちばん分かっているはずだろ。子どもを産ませるだけなら誰でも良くても、心を満たせるのは1人だけだ」
優しく私のうなじを撫でると
「アンタの首を噛んで確信した。他の誰が間違いだと言っても、俺はアンタを得るために生まれたんだって」
幸福に満ちた声で言うと、温かな腕で私を引き寄せて、そのままギュッと抱きしめた。
私とこの子の関係は、明らかに誰にも祝福されない。自分さえ肯定していいものではない。
……それなのに、なぜだろう。
ずっと焦がれていた光に、ようやく触れた気がしたのは。
征宗の腕に抱かれながら、ふと涙が込み上げた。けれど、それは明らかに絶望や自己嫌悪による涙では無かった。
私は征宗と違って弱くて、他人が決めたルールなんて関係ないとは割り切れない。
だけどこれから、この子の腕に抱かれるたびに思うだろう。他の全ての痛みや苦悩と引き換えにしても、このひと時の幸福のために、きっと私も生まれたのだと。