天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!①

動かない主人公

 うーんと背伸びする。たまにストレッチでもしておこうかな。本を読んで凝った肩をほぐしてほしいなぁ〜とアナベルに言うと、知りませんよっ!と怒られたばかりだからだ。

「お嬢様、お気づきですか?本日、そこのテーブルからベットまでしか動いてません!」

 私の動線をよく知ってるなぁ。できるメイドだわ。

「そろそろお昼かな~?お昼のメニューは魚のムニエルだったかしら?」

「そうですね。そろそろ持ってきてくれるはずですわ。フフッ。お嬢様ったら、お腹が時間を知らせてくれたのですか?」

「日の高さと影から時間はそんなものかなと計算したわ」

「動かずにその能力で解決してます?能力の無駄遣いやめてください。あら?時計は……?」

「なんか、朝から故障なのか動いてないのよね」

 もうっ!早く言ってくださいよっ!とアナベルは時計が壊れてますーと、どこかへ持っていった。

 ファ~と私はあくびをした。テーブルの上に二通の手紙が来ていた。すべて開封後のもの……チェックが入れられてる。プライバシーもなにもない。

 両親と私塾の師匠からだ。両親からのものは内容がヒドイ。首尾はどうー?王様に会えたー?的な軽いノリの手紙。もう少し娘の身を案じても良いと思うんだけどな。この手紙、燃やしちゃおうかしら?

 師匠の方は後宮ではどうか?健康に気をつけなさい、勉強してきたことは無駄にはならないなど労ったり励ましたりしてくれる手紙で、ちょっと目がウルッときてしまった。こっちの手紙は大事にとっておこう。

 なかなか入るのが難しい私塾で、合格をもらい、入ることを許されたときの嬉しさ。その中でトップ争いをする楽しさ。充実していた日々が懐かしい。今は怠惰への道を歩みつつある。なんだか遠い目になってしまう。

 お昼のムニエルの魚と私は見つめ合う。運動していないから、いまいち食欲がわかないのだ。

「お嬢様、活動なさらないとお食事も美味しくないでしょう?ダンスの練習でもしますか?」

 アナベルは鬼の首をとったかのように嬉々としてそう言う。

「ダンスの練習ねぇ……パーティーに出ないのにいるかなぁ?モチベーションがあがらないわ〜」

 一通りのダンスは踊れるけど、する意味があるかなぁ。ダンスはめんどくさいので、話をすり替えることにした。

「そういえば、時計は?」

「それが、今日中には直らないみたいです。修理する方が忙しいとかで……」

 ちょっと貸してと私は分解し始める。元に戻すためにきっちりと部品はテーブルに並べる。

 あ……はずれてる箇所発見。はめ直す。

「出来たわ。今の時間は……だいたいこんなものかしら?」

 カチコチ動き出した。アナベルがすごいです!と褒める。久しぶりにアナベルに褒められた気がする。

「お嬢様、こんなこともできるのですね!」

「部品が壊れていたら直せなかったわ。はずれてる程度でよかったわ」

 さて……と、冷めた料理を食べる。頭を使ったので、お腹が減った。

「えっと……まさかお腹減らすためでした?」

「そうよ」

 アナベルがそうですよね……それなら最初から直してくれましたよねと言う。はぁ……と深ーいため息を吐かれたのだった。
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