天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!①

薔薇の花は咲き誇り、棘を刺す

「たまには庭園で読書もいいわねぇ」

 白い小さな可愛い建物の中には小さなベンチがあった。以前、散歩して見つけて以来、一度はここで、まったりしたいと思っていた。

「お嬢様は呑気で良いですねぇ。他のご令嬢達は陛下のために日々、ダンス、楽器、礼儀作法、話術などに磨きをかけているそうですよ?ちょっと焦りませんか?」

「あら?私も日々、法律、治水、土木、経済、魔法、歴史、地理になどに磨きをかけてるわよ」

「王妃候補にそんな知識いりませんし、お嬢様の読書傾向を聞いてるんじゃありませんよっ!」

 冗談よ、冗談……と言って、ムキになるアナベルに笑いかけた。それにしても今日は気温もちょうどいいし、そよ風が吹いているし、眠くなってきたわ。薔薇の咲く庭園には良い花の香りもほのかに漂っている。なんて贅沢。

 本を片手にウトウトしかけたところに、遠くからキャアキャアと甲高い声の集団が来るのを察知した。

 まずい!と私は起き上がる。アナベルが神業のごとく、私の乱れた髪の毛をササッと直した。
 
「あらー?あなた、誰だったかしら?」

 ミリー伯爵令嬢だ。大きな宝石のついたゴージャスなネックレスにつけている。確か鉱山が、この方の領地にはあったわねとぼんやりと思う。

「お散歩ですか?クラーク男爵の娘、リアンと申します」

「あなたも薔薇を愛でにいらしたの?」

 ……薔薇?

「え、ええ……見頃ですわね」

 いいえ。お昼寝です。という真実は隠して返事をした。

「わたくしたちと薔薇の花の鑑賞会でもどうかしら?」

 ミリー伯爵令嬢が私を誘うと、取り巻きの令嬢達が、こんな子誘わなくていいのに……ミリー様はお優しいですわ。と聞こえよがしに言う。

 それを嗜めるでもなく、ミリー伯爵令嬢は口の端に笑みを浮かべ、心地よさげに取り巻きの声を聞いている。

「えーと、私は薔薇にさほど詳しくはないのですが……」

「構わなくてよ!薔薇の花は高貴な者にしかわからなくてよ。教えて差し上げるわ」

 マウントとろうとしているのが、見える……。キャー!お優しすぎ!と、騒ぐ取り巻き。

「お嬢様どうします?」

 アナベルは私に冷静を保って聞きつつも、失礼な人達ですっ!と、怒っているのが伝わる。

 まぁ、ここで断れる雰囲気でもないし……。

「では、少しの間、ご一緒させてください」

 ニッコリと私はほほ笑む。昼寝を邪魔して、余計なことを!と思っていることは隠した。

「この薔薇の花はご存知?」

 少しオレンジかかった色味の薔薇の花だ。ミリー伯爵令嬢が得意げに尋ねてきた。

「えーと、なんでしょう?」

「これはスイートガールと言う花ですわ。あちはブルーレディ、こっちはブラッドムーン」

 私は名前の説明を得意げにしていくミリー伯爵令嬢に秒で飽きた。あくびを堪える。さっさと昼寝に戻りたい。

「スイートガールは先々代の王が始めて王女を授かった時に作らせた薔薇ですね。ブルーレディは先代の王が王妃様との結婚記念でつくったもの。ブラッドムーンはこの王家に災いをなした蛮族を倒した王のために捧げたもの」

 でしたわね?と私が言う。静まる令嬢達。

「な、なんですの!?場がしらけましてよ!ごきげんようっ!」

 マウントをとるのに失敗したミリー伯爵令嬢はプンプンと怒って去っていった。

「お嬢様は短気ですからねぇ……あんな失礼な方たちのやりたい放題にはしないと思いましたよ」

 アナベルは清々しい顔でそう言った。私はあくびを一つした。

「あー……やっと追い払ったわ。昼寝の続きしよっと」

「ま、まさか!?昼寝のために!?」

 私はお気に入りの場所へ戻って、薔薇の香りのする庭園で、そよそよと心地よい風を感じたのだった。

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