天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!①

シエラ様のお茶会

 ウィルの言っていたとおり、禁止令は数日内に解かれ、シエラ様からお茶会に誘われた。

「クラーク男爵令嬢のお部屋は、後宮で一番良い部屋じゃなくて?」

 先日、私の部屋に来たシエラ様がそう言う。私は他の令嬢の部屋に行かないし、興味もないので、気づいているわけもなく、えっ?と驚いた。

「皆、同じではありませんか?」

 キョロキョロとシエラ様の部屋を見る。私の部屋が多少広くて日向ぼっこに最適な日当たり……と言えなくもないかもしれないが、そんなに重要なことだろうか?

「クラーク男爵令嬢、お好きなお菓子をどうぞ、召し上がってちょうだい」

 それを言うなら、シエラ様のお茶会で使われているお菓子は種類も豊富でチョコケーキ、生クリームと果物のケーキ、パウンドケーキ、チーズタルト、フルーツタルト、クラッカーに甘いジャム、クッキー、チョコレート、マシュマロ、季節の果物などが所狭しとテーブルに並べられている。

 豪華すぎる!なぜ私の部屋のお茶菓子は地味なのかな?格差有りまくりよ。

「美味しいです……ケド」

 そう言いつつ、憮然とした私の心を読んだらしく、後に控えているアナベルがヒソヒソと耳打ちした。

「お嬢様はゴロゴロしているだけなのですから、あまり甘いものをとると子豚になりますから、控えてもらっていたんです」

 アナベルの仕業だった。ひそかに健康管理をされていたらしいことを今、知った。

「そういえば、陛下に刺繍のハンカチを渡しましたのよ。受け取ってくれたそうですわ」

 周囲の令嬢たちが、キャー!嬉しいわー!と騒ぐ。私はそうですかーとニコニコ笑って合わせておく。心底……どうでもよかった。

 それより早く帰って寝転びつつ、読書タイムしたいわーとぼんやり思っている私だった。

「陛下はなぜ後宮に近寄らないのでしょう?こないだのパーティーも来ると言われていたのに姿を見せませんでしたし……」

「忙しいと言えども、わたくしたちに一度くらい顔を見せてくれてもよろしいですわよね」

 陛下への不満を口にする彼女たちを横目に、私はイチゴジャムサンドクラッカーをサクサク食べ、お茶をいただく。今のうちに美味しいお菓子を堪能しておこう作戦。

「クラーク男爵令嬢はどう思われますこと?」

 いきなり話を振られた!ゲホッとお菓子を喉に詰まらせかけて、危なかった。ステキな令嬢を演じなければ!

「ええっとー……そうですわねぇ。若くして獅子王と呼ばれる方ですし、政治に今は関心があるのではないでしょうか?花嫁探しなどは考えていない……というところでは?」

 私の予測を話す。シンと静まる部屋。

「まるで他人事のようにおっしゃいますのね。陛下がわたくしたちに関心が向かないというならば、向かせなければなりせんわ!」

 シエラ様はやる気まんまんだなぁ。私はお茶を飲みつつ、そうですかーと気のない返事をした。

 お茶会はお開きとなり、部屋へ帰っていく。そそくさと帰ろうとすると、シエラ様が私にちょっといいかしら?と声をかけて呼び止める。

「どうされましたか?」

 なぜ、呼び止める!?という感情は消しておく。

「先日、命を助けて頂いたクラーク男爵令嬢と親友の証としてハンカチの交換をしたいの」

 スッと高級そうなレースのハンカチを差し出される。ハンカチ、私持ってきてた?マズイ。なかったかも。

「そんな命まで関わるような毒ではありませんでしたし、お気遣い無用ですわ」

 ハンカチ無いかもしれない!忘れたかもしれない!という焦りを隠しつつ、サラリと辞退しようとする私の手にギュッとハンカチをにぎらせてくる。グイグイ来る人だなぁ。

 アナベルがドレスのポケット右ですと耳打ちする。できるメイド!ちゃんと入れておいてくれたらしい。

「あ、えーと、どうぞ……」

 私のハンカチは草花の刺繍の入った普通の物だ。まさか交換しましょと言われるとは思ってなかった。そこまで仲良くすることにシエラ様にメリットはあるのだろうか?助けたが、強い毒でもなかったし……違和感がある。

「ありがとう!仲良くしたいと思ってますのよ!これからもよろしくお願いいたしますわ」

 こちらこそ。と私はひきつった笑いになった。

 部屋へ帰ってきたが、精神的に疲れてクタクタである。

「私には向かないわー」

「でもお嬢様、あのシエラ様と仲良くなれそうで、すごいじゃないですか!」 
 
 アナベルが嬉しそうに言う。私は苦笑した。ポイポイポイと脱ぎ捨てて行き、ベットへ飛び込む。

「夕食まで、お昼寝しまーす」

「相変わらずなのですね」

 怠惰に生きようとしているのに、舞台の上に無理矢理上げないでほしい。あのシエラ様はちょっと要注意人物かもしれないと私はレースのハンカチが頭から離れないまま、眠りの中へ入っていった。
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