天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!①

明らかになる事件

 私が再び目を開いたとき、信じられない光景が広がっていた。王座の下にずらりと並ばされた人達。

 夢……かな?もう一回寝たら覚めるよね。今、目を開けちゃだめな気がした。

「起きたか?」

 その声に反射的にパッと目が開いた。

「ウィル!?……えええっ!?」
 
 ウィルは私を抱えたまま王座に座り、かなり機嫌の悪い顔をしていた。いつも穏やかな彼のこんな顔を見たことなかった。

「どういうこと!?」

「オレが王だ。エイルシア王国の国王ウィルバートだ」

「そんなわけないわ。夢ね。もう一回、やっぱり寝るわ。おやすみなさい」

「寝るなよ!本当に王なんだよ!現実逃避するなよー!」

 私の反応に慌てるウィル。

「口調も違うし、雰囲気もぜんぜん違うし、ウィルの生き別れの双子の兄弟とかでもなくて?」

「生き別れの兄弟は生憎いないし、リアンの前ではのんびりしていただけだよ。王の立場ではそうはいかない」

 プイッとなぜか恥ずかしそうにそっぽを向く。さて、やるかと立ち上がった。その動き一つにザワリとざわめく室内。

 遠征から帰ってきて、すぐに来てくれたことがわかる。鎧こそつけてはいないが、戦闘用の服と旅装のマントをまとっている。

「私……えーと、離してもらっていい?」

 ウィルの腕の中に未だにいることに気づき、恥ずかしくなる。

「嫌だ。離したくない。オレの傍が一番安全だ。それに衰弱してて、まだ立ち上がれないだろう。今からリアンをそんな目に合わせた奴らに後悔させてやるよ。見てろよ」

 この人、本当にウィルなの!?と私は驚く。かなり好戦的だ。

「まずはシエラとかいうやつ、出てこい。後、リアンに触れたやつとそれから取り調べをしたやつと食事を運んでいたやつ!……もうめんどくさい!関わったやつらは全員前へ出ろ。誤魔化すと後からもっと酷い目にあうことはわかってるよな?」

 怒気のこもった声音が威圧的で怖い。恐る恐る顔を見ると、私が知っていた気の抜けたウィルの雰囲気は見る影もなく、ピリピリと気が立っていて、荒々しい。

 シエラが体を震わせて、床に頭をつけて言う。

「お許しください!どうしても陛下に会いたくて事件を起こしてしまったのです!気に留めて頂きたく思ったのです!後宮で騒ぎが起こればいらしてくれると……」

 ガッ!と音がした。きゃあああという叫び声。シエラの指と指の間に短剣が突き立てられていた。

「どこから切り刻んでほしい?」

 ……ウィル!?私は冷や汗が出た。本気で怒ってる!我を失ってる!

「陛下!おやめください!落ち着いてください!」

 さすがに止めに入ってくる周囲。無視するウィル。凍りつくような冷たい眼差し。

「そいつは縛り首にするか」

 私を殴ったやつを指さした。ヒィィィと情けない声をあげている。

「毒だったよなぁ?リアンに毎食盛っていたんだって?」

「そっ、それはミリー伯爵令嬢ですわ!」

 シエラが蒼白な顔で、ガタガタと体を震わせつつ言う。

「わたくしは知りませんわ!」

「まあ!自分だけ知らないフリをして、裏切りますの!?」

 罪のなすりつけ合いをしている二人。

「黙れ!」
 
 雷のような一言で静まる。そしてウィルは剣を振り上げた。え……?まさか!?

「ウィル!やめてよ!」

 私は渾身の力を振り絞ってウィルの腕にすがりつく。

「なっ!?なんでだよ!?」

「こんな怖いウィルは嫌いよ!いつものウィルがいいのよ!」

 不覚にも涙がポロッとこぼれる。慌てるウィル。

「え!?嫌い?リアン!?でも君にひどいことしたやつらだぞ!?」

「もういいから、平和な私の時間に戻りたい……怖いウィルは……嫌いよ」

「えええええ!?き、嫌いって!?リアーーン!」

 そう私は言い残して、パタッと力尽きた。もう怠惰にまったり過ごしたい。ダラダラゴロゴロと過ごしたい。騒ぎはまっぴらだと思った。
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