天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!①

月の心は何処にある

 選択肢をくれるなんて思わなかった。だって、ウィルバートは欲しいと思ったら必ず手に入れるって言っていたし、それができる王様じゃないの。実際そう言っていたのに……なぜ急にあんなこと言うのかしら?

 私はとまどい、物思いにふける。

「お嬢様、手紙がきていましたよ」

 アナベルが雑務を済ませて、部屋に帰ってきた。お盆に一通の手紙をのせてきた。

「え?誰から?」

「先生ですよ!」

 タイミングが良すぎるわねと苦笑する。まるで悩んでいることを知っているかのようだ。私とウィルのことなどお見通しなのかも。

 私とウィルが行っていた私塾の『師匠』と私達が呼ぶ先生からだ。心配するような手紙を以前、くれたけど……。

 心配なのは、きっと私のことではなかったのだと今ならわかる。師匠が気に病んでいたのは、私に正体がバレた後のウィルのことだったのだと。

 珍しく労ってくれる手紙をくれると思っていたのよね。私、怠惰に過ごしていて、ちょっとボケていたかもしれない。うるっとして出た涙、返して!

 アナベルがペーパーナイフを持ってきてくれて、不思議な顔をした。

「お嬢様?封を開けないのですか?」

 いつしか手紙の中身のチェックも無くなり、家族との面会もいつでもできるようになっていた。ウィルがそうしてくれたのは間違いない。

「開けるわよ」

 スッとペーパーナイフで開けた。

『リアンへ 欠けた月を戻せ』

 ……あれ?……えっ!?

 こ、これだけええええ!?師匠ううううう!?

「思い出した。そうだった!こんな人だったわ」
 
 私は額に手をやる。ヒントにならないヒントをくれる。師匠は決して甘くない。いつだって答えをすべて教えてはくれない。
 
 師匠が知ってるウィルの話とか!私はどうしたらいいとか!なんかアドバイスくれると思ったら、コレである。

「あら、まあ!あの先生らしいですね。謎解きですか?」

 アナベルが短すぎる一文を見て、笑う。空気の入れ替えしますねと窓を開けてくれる。太陽の光が差し込む。心地よい風が入ってくる。

 窓の所へ行き、外の景色を見たくなった。今日は良い天気だ。

 月はウィルのことだろう。欠けた月は元に戻せるの?欠けた理由はなんだったのだろう?

 ウィルは王であり続けるし、綺麗事だけでは生きていけない世界にいる。

 月は太陽の光無しでは、その光をこの世界にもたらすことは出来ない。

「お嬢様、アナベルには難しいことはわかりませんが、大事なのは、お嬢様の心ではありませんか?」

 私はハッとして顔をあげる。アナベルが僭越ながら……と付け加える。

「頭を使って考えるのもよろしいですが、心の思うまま、たまには選んでみたらいかがです?」
  
 幼い頃から私に仕えてくれて、姉妹のようなアナベルは姉のようにそう言う。

「えーっと……それで、もし私が後宮から出てもいいのかしら?縁を切られて、クラーク家を追い出されそうだけど……」

 帰ってきちゃった〜。てへっ(笑)と言った時の、両親の激怒っぷりが目に浮かぶ。

「その時はアナベルもお供します。どの選択をしようと、お嬢様についていきます」

 ありがとうと私は言った。とても心強い味方のアナベルに感謝する。一人ではきっと孤独な後宮生活だっただろう。

 私は雲一つ無い青空を見上げて、太陽の眩しさに目を細めた。
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