見習い料理研究家は甘党消防士に捕獲されました。
 ◇

 その日は週に三度の料理教室の日だった。

 母の料理教室の生徒さんは主婦が多い。でも、写真映えするとかなんとかで、若い人も三割くらいいる。

 私は純粋に料理が好きな人とか、上手くなりたい人とかに来てほしい……なんて、思っていた時期もあった。

 けれど、そう思う私に母は言ったのだ。

『どういう動機であれ、料理をしてくれるのは嬉しいじゃない』

 その考え方は目からうろこだった。それに、言いたいことはよくわかる。

 きっかけがなんであれ、料理の楽しさに気が付いてくれたらいいなぁって、私も思うもの。

 母の料理教室は、基本的に一回でいくらの料金制。とはいっても、母の値段設定があまりにも低すぎて、かろうじて赤字を免れている程度。だって、教室代と材料費くらいしかとらないのだもの。

(主な収入はレシピ本の印税だしね……)

 それでもまぁまぁな生活は出来ているので、問題はない。そう、母の料理教室に問題はない。

 問題があるのは……。

「千波、成果はどうなの?」

 外に出ていた母が、帰ってきて一番にそう問いかけてくる。

 ……成果。それを聞かれるのが、辛い。

「なんだろう。なんか、違うっていうかぁ……」

 洗った調理道具を布巾で拭きながら、天井を見上げる。
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