見習い料理研究家は甘党消防士に捕獲されました。
(これじゃあ、何処まで言っても生駒 美也子の二番煎じだもの……)

 幼少期から母の料理を食べてきた。その弊害は、舌が肥えた……というものだけではなかった。

 私にとって一番の弊害。それこそ――どう足掻いても母の味になってしまうというもの。

「お母さんの味と似ちゃうんだよね。あと、コンセプトとかモットーとかも……」

 正直、二番煎じなんていらないと思う。

「私、生駒 美也子の二番煎じになりたくないの……」

 ぽつりとそう零してしまった。

「……まぁ、あなたは幼少期から私と過ごしているし、どう頑張っても考えとか似ちゃうのかもね」

 目の前に椅子を持ってきて、母がそう言う。私は、頷いた。

「そう、なの。そもそも、似たようなものを作ったところで生駒 美也子には勝てないし」

 母の名前にはブランド力がある。それに比べ、私なんて……うん、考えないほうがいい。

「そうねぇ。……とりあえず、ゆっくりと探しなさいな」

 なんてことない風に母はそう言うけれど、私からすればゆっくりしている時間なんてない。

 一刻も早く、一人前になりたいのだ。……いつまでも、母のすねをかじっているわけにはいかない。

「お母さんだって、私に早く一人立ちしてほしいでしょ……?」

 これでももう二十六歳だ。そろそろいい加減、まともに働いてほしいはず。

「ははっ、別にいいわよ。助手探す手間が省けていいわよ」
「うー、そうやって甘やかさないでよ……」

 いつも思うけれど、母は私にすこぶる甘い。一人娘っていうのもあるのかもしれないし、二人で助け合って生きてきたからかもしれない。

「甘やかしてないわよ。料理に関してはビシバシやってるし」
「……そう、だけれどさぁ」

 もうちょっと私生活面でもビシバシしてほしいというか、なんというか……。

 なんていうことも出来ずに、私は肩を落とした。
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