見習い料理研究家は甘党消防士に捕獲されました。
「まぁ、千波の言うことも分からなくはないんだけどね。……っと、これ、来月のスケジュールね」

 ふと思い出したように、母が鞄の中からファイルを取り出して、それを渡してくる。

 手を拭いて、受け取って中身を確認。そこにはいつの教室で、なにを作るかなどが記されている。あと、どういう年齢層の人が多いかとかも。

「来月は週に四回だけど、頑張って」

 にっこりと笑って母がそう言う。……あぁ、そうか。もう、八月か。

(なんていうか、一年ってすっごく早い……)

 などと思いつつ、私は「わかった」と返事をする。

「っていうか、お母さん、この後取材じゃなかったっけ?」

 確か今日は、何処かの主婦向け雑誌の取材とか、なんとか言っていた。

 時計の針を見つめる。時刻は午後の三時。取材は確か四時から……だったはず。

「後片付けは私がやっておくし、鍵とかも返しちゃうから行ってきなよ」

 調理器具も大方洗い終わっているし、あとは軽く掃除して戸締りだけだし……。

「けど、千波は……」
「いいのよ。私はこの後予定ないし。書店によってぶらぶらしようかなぁって思ってたくらいだから」

 この近辺にある大型書店は年始以外は夜の九時まで開いている。それに、別に急いでほしいものがあるわけじゃない。

 ……参考になるかと思って、レシピ本を見に行くだけのつもりだし。
< 4 / 9 >

この作品をシェア

pagetop