見習い料理研究家は甘党消防士に捕獲されました。
「そう? じゃあ、任せちゃっていい?」
「うん、いいよ。その分のお給料はたくさんもらってます」

 にっこりと笑ってそう言うと、母は「ごめんねぇ」と言ってエプロンを外して、鞄を持って教室を出て行った。

 残された私は、あと少しの片づけをしてしまおうと手を動かす。

「……来月は、子供が相手なんだよね……」

 母は毎年八月限定で子供向けの料理教室を開いている。対象年齢は小学校高学年から中学生。作るのは主にお菓子とかスイーツとか。レシピは普段よりもずっとシンプルで、料理が初めての子にも取っ付きやすいものを選んでいる。

「子供……かぁ」

 別に子供が特別苦手なわけではない。ただ、なんだろうか。

 近くに年下の子供がいなくて、面倒を見たことがあんまりない。その所為か、この時期は無駄に緊張してしまう。

「とはいっても、子供の相手は週に一回だけ。残りは全部いつも通りだし、なんとかなるでしょ」

 そう呟いてボウルを布巾で拭いていく。

 不意に窓の外を見つめれば、照り付けるのは夏の暑苦しい日差し。

 この教室は冷房がかかっているから快適だけれど、外に出たら汗が噴き出そう。
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