ごきげんよう

出社前に

※性的な描写があります。ご注意ください。

***

「君もさ…僕が少し甘い顔を見せると、すぐ調子乗るよね?」
「いったい何の話ですか?」
「とぼけないで。君は男なしじゃいられないんだよね?僕も悪かったね。ここのところ抱いてやれなくて…」
「や…あ…めて」

 夫は私をリビングの壁際に追い詰めた。
 かみつくようにキスをした後、ソファまで引きずって押し倒した。
 どこも見ていないような胡乱な目で私を見据え、上に覆いかぶさる。

 娘たちは既に登校していて不在だ。
 彼は私の服に手を入れ、下着を少しずらすだけで脱がせはない。
 ただでさえ全くその気のない私には苦痛だし、下着も傷むので、本当は勘弁してほしい。

「本当にインランだな。こうしてほしかったんだろう?え?」

 彼に揺さぶられ、声も揺れる。

「隣の家に聞こえるくらい声出せよ!もっと!」

 うんざりしながらも、ああ、そういうことかと、(彼のおかげで)勘が研ぎ澄まされている私はピンと来た。

***

 お隣には大学生の息子さんがいる。快活で感じのいい青年で、自分から挨拶してくるのだが、それが夫のお気に召さなかったようだ。その彼に聞こえるような声を出せ、という意味らしい。

 彼はあらゆることで私の浮気を疑う。

 娘の学校のPTAで活動している男性(パパさん)。学校の近くにお住まいで自営業なので協力的らしく、人柄も評判がいい。
 上の娘がそれについて「パパも学校に来てくれればいいのに」と言っただけだが、「君はその男と何かあるのか?」と言われる。

 夫の部下の男性が私をきれいだと褒めれば、「会社の若い者に色目を使った」とみなされる。

 自分の留守中に届け物があれば、「配達の男が家に来た」と変換される。ここまで行くとAV(アダルトビデオ)か何かの見過ぎか、何かの病気としか思えない。

***

 あまり聞きたくもない話だろうが、私は彼との営みで“達した”ことはない。
 しかし彼は、私を毎回「満足」させているつもりのようで、自信満々だ。

 彼は結婚後、私が知っているだけで4人の女性と関係を持っている。ほかにも軽いつまみぐい程度あるだろう。一体普段はどんな女性がお相手なんだろうと呆れる。


 自分だけ「満足」した彼は、身支度を整え、ほぼ無言で家を出た。

 私はただ(ほう)け、しばらくソファに横たわっていた。
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