響け、僕らの『青春!恋慕唄』


 3人がここに居るなんて莉奈先輩も知らなかったようで、先程よりももっと頬を赤く染めて口をパクパクさせている。


「星野、お前ずっと柊斗のことが気になってるとは言っていたけど。意外にも大胆だったんだな」
「大哉!! 要らんこと言わないでよ!」


 ニヤニヤとしている3人の様子が何だか恥ずかしい。

 ……っていうか。


「何で3人はここに居るの?」


 率直な感想疑問を投げつけると、少しだけ口角を上げている神崎が「ふふっ」と言いながら言葉を発した。


「英語科準備室の付近を歩いていたら、偶然お2人を見かけまして。何だか面白そうなことが起こりそうだと思って、屋上まで付いて行って話を聞いていました」
「……いや、こっちもストーカー&盗み聞きじゃないか!?」
「“こっちも”って何よ! 私のこと言ってんの!?」
「え、ちが……」
「私以外居ないじゃない!!」


 ついに全身が真っ赤になってしまった莉奈先輩に、またバシッと力強く背中を叩かれた。

 盗み聞きをした神崎が大哉先輩と明梨ちゃんに事情を話して、3人も今日ここへ来ようと段取りをしていたらしい。

 文化祭でのステージ発表の件はやっぱり知らなかったみたいで、ついでにその話もさせてもらい、どうして俺が詩を書いているのかなど……詳しく皆に話した。

 一通り話終えると、分かりやすく唇を尖らせていた大哉先輩が不機嫌そうに俺の肩を叩く。それに便乗した莉奈先輩と神崎と明梨ちゃんも、同じように俺を叩いた。


「バカだな、柊斗」
「西園寺先輩、バカ」
「バカです、バカ」
「え、皆で言う必要あるそれ!?」


 つい涙目になりながら皆に抗議(こうぎ)すると大哉先輩に力強く肩を抱かれて、今度は荒く頭を撫でられる。急なことにビックリして固まっていると、「頼れよ」と一言言ってまた頭を撫でられた。


「俺ら仲間だろ。事情をお前にしか言わなかった涼華ちゃんも当然悪いけど、お前も俺らに話せよな。桜川高校の軽音部で出会えた、大切な仲間だ。1人で抱えるな」
「大哉先輩……」


 優しい言葉に感極まって涙が一筋零れ落ちる。
 持っていたタオルで軽く拭いながら微笑んで「大哉先輩の言葉、俺の詩みたい。くさいです」なんて言うと、顔を真っ赤にして飛んできた先輩に体を押し倒された。


「…………」


 そのまま石段に寝転がって、空を眺めた。
 さっきよりも青々として見えるカラッとした空が眩しい。

 無言でそのままで居ると、大哉先輩も、莉奈先輩も、神崎も明梨ちゃんも。
 皆が、同じように石段に寝転んだ。


 他に誰も居ない海浜公園に、静かな風が吹き抜けていく。


「なぁ、柊斗。別に詩がくさくても良いじゃないか。お前の想いは沢山込められているんだろう?」
「そうですけど……。違うんです、先輩。俺、神崎が趣味で書いている格好良い詩を書きたいんです」
「え、俺の詩ですか?」


 神崎は比喩(ひゆ)を使った表現が上手い。
 どんな言葉も比喩を使って幻想的に表現をする。

 一方の俺は、残念ながらそんな高度な知識は持ち合わせていない。
 何の(ひね)りもないその真っ直ぐな言葉の羅列(られつ)は、神崎と比べて劣等(れっとう)感しか無いのだ。

 そしてそれが、くさい詩――……いかにもみたいな、わざとらしいみたいな……。そんな感情に結びついている。


「西園寺先輩、俺の詩はそんな褒められた物では無いですよ」
「いや……本当に格好良いんだから。“漆黒(しっこく)の罪深き薔薇(ばら)のように”とか“堕天使(だてんし)は優しく微笑み~”とか」
「……」


 唖然(あぜん)
 その一言が良く似合う表情の先輩2人と明梨ちゃん。

 何でそんな表情なのか意味が分からず首を傾げると、神崎は1人頭を抱えた。


「何だろう。恥ずかしくなってきました……」
「……うん、それはきっと正しい感覚だよ。神崎」


 俺以外の4人、皆が何故か苦笑いをしていた。



 それから(しばら)く俺たち5人は、寝転んだまま空を眺め続けた。

 青空を眺めてくると自然と浮かんでくる詩。
 だけど今浮かんでくる詩は、何だか清々しささえ感じるから不思議だ。

 1人よりも2人。2人よりも……5人。

 俺の周りに居る、素晴らしい仲間たち。


「……よし。柊斗が考えた詩を基に、皆で考えようぜ。文化祭のステージ発表は柊斗だけの物じゃない。俺ら4人も関係あるんだから。絶対に良い曲を作って、校長先生のズラを吹っ飛ばしてやろう!」
「それ逆に、軽音部が廃部の危機に陥っちゃうやつ!!!」

 そう言って、皆でまた笑った。



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