響け、僕らの『青春!恋慕唄』


 莉奈先輩は鍵を返却するために特別教室棟にある職員室へ向かう。そんな先輩に俺も付いて行った。



「失礼しま~す。軽音部3年の星野です」


 先輩が職員室の中にいる間、俺は廊下の窓から外を眺めた。
 高台にあるこの学校は、夜景が綺麗だということでも有名。中でも特別教室棟からの夜景が1番綺麗だ。


 1人呆然と夜景を眺めながら色々と考え事をしていると、「お疲れ」と横から声が飛んできた。

 その声の主は内山先生。
 片手を挙げながら俺に近付き、一緒に窓の外を眺め始める。


「ありがとうな、西園寺。そして……色々と悪かった」
「いや、軽音部全員の成果です。俺1人じゃないです」
「……優しいんだな、お前。……まぁとにかく。あの曲、本当に良かったぞ。先生、感動した。Excellent(エクセレント)だ」
「ありがとうございます」


 キラキラと輝く街並みは、まるで俺らを褒め(たた)えてくれているかのよう……なんてまた、それがくさいんだけど。ずっと抱えていた悩みが解決し、本当に考えられないくらい清々しい気持ちで胸がいっぱいだ。


「西園寺、先生な……決めたんだ」
「……何をですか」
「お前らのオリジナル曲を聴いて自覚した。先生やっぱり、バンドがしたいんだ。だからな、今年度で教師辞めるわ」
「はぁ!?」


 真顔でとんでもないことを言う内山先生にビックリして、思わず大きな声が出た。


「いや、勿体(もったい)ないって……」
「勿体ない……何が? せっかく大学に行って教員免許を取って、県立高校の教員として採用されたのにってことか? ……“私”は違うな。教師という仕事を続けることよりも、今自分がやりたいことをやらない方が、勿体なく思う」


 吐き捨てるような言葉。だけど、それだけで本気さが伝わる。
 そんな内山先生の目には、言葉に言い表せないくらいの力強さが(にじ)んで見えた。



「柊斗くん、お待たせ~って、涼華ちゃん!」
「よ、星野。お前、西園寺と付き合いだしたらしいな。良い趣味してんじゃないか」
「ええっ!?」


 これまた唐突な内山先生の言葉に、一気に顔が赤くなる莉奈先輩。
 その様子に俺自身もドキッとすると、内山先生はニヤッと物凄く悪そうな笑みを浮かべた。


「星野も先生もあと半年だ。桜川高校軽音部、楽しもうな」
「……内山先生、今のうちにサイン貰っときます」
「おぉ!? 西園寺、そりゃ高くつくぞ……!!」


 俺と内山先生の会話が理解できない莉奈先輩。
 この話は、また後で話してあげよう。

 そう思い、再び窓の外に目を向ける。



 先輩2人と一緒に演奏できるのも、あと半年。
 内山先生も、あと半年。


 どうしようもできないそんな現実に少しだけ哀しみを覚えながら。隣で立っている莉奈先輩の手を、そっと優しく握り締めた。



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