響け、僕らの『青春!恋慕唄』


「今度こそ曲をやろうよ!」

 莉奈先輩はドラムスティックをカチカチと2回叩いて、バスドラムをドンッと1回叩く。後から来た神崎と明梨ちゃんが頷くと大哉先輩も頷き、莉奈先輩はニヤッと口角を上げた。

 そして「ワン、ツー!」と大きく掛け声を上げて、また力強くドラムを叩き始めた。ドラムソロが(はち)小節(しょうせつ)続いた後、全ての楽器が同時に合流する。

 今から弾くのは、さっき大哉先輩が弾いていたJ-POPだ。

 俺ら、桜川高校軽音部の定番曲。
 これを弾かなきゃ……部活は始まらない……!!


 全ての音が混ざり合い、この狭いプレハブ小屋の中で響き合う。自分が奏でる音がみんなの音と一緒になるこの感覚が、俺は本当に大好きで堪らない。

 本当なら入学して3か月くらいの1年生はここまで弾けないだろう。しかし、神崎も明梨ちゃんも入部した時点でめちゃくちゃ上手かった。基礎練習をすっ飛ばして、すぐに曲の練習を始めて今に至るのだ。


「いやぁ~、Congratulation(コングラチュレーション)!!!!」
「内山先生!」

 曲が終わり5人で顔を見合っていると、扉の方から聞こえてきた陽気な声。そんな声の方に目線を向けると、顧問の内山先生が立っていた。そしてパチパチと大きく手を叩いている。

「お前ら最高だな~!! 先生もギタリストとしての血が騒ぐぜ……!!」

 内山先生は大学時代にバンドを組んでいたらしい。曲を製作して自費販売やライブなど、勢力的に活動をしていた……らしい。聞いた話しか知らないから、そう曖昧だが。

 そんな内山先生、教師になったことでバンドの継続ができなくなったようだ。バンド活動が大好きだったのに、泣く泣く教師の仕事を優先させ……バンドを抜けた。

 その後、先生が抜けたバンドは新メンバーを募って更に活躍の幅を広げていき、なんとメジャーデビューを果たしたんだ……。

 しかもそのバンドは俺も良く知っている。高校入学前からずっと大好きな……有名バンドで……。

 今でも思い出す、この話をしてくれた時の内山先生の顔。
 日頃はこうやって強気な口調でニコニコと過ごしているけれど。時間が経った今でも、多分先生は悔しくて、辛くて……やり切れないのだろう……。


涼華(すずか)ちゃんも弾こうよ!」
「おらぁ、内山先生って呼べ~!!」

 そう言いながらもニコニコ笑顔の先生は、どこからともなくハードケースを持って来た。そして「実は持って来ていたんだ」と言いながらケースを開けて、ピッカピカのレスポールタイプのエレキギターを取り出した。
 俺のレスポールが1番カッコいいけど、先生のレスポールもカッコいい。青空に負けないくらい真っ青なギターを肩に掛け、「ふふっ」と言いながら高速アルペジオを披露し始める。


 流石、内山先生。
 メジャーデビューを果たすほどのバンドに所属していただけある。

 俺も明梨ちゃんも、当然内山先生には敵わない。
 高速なのに正確なその音に、他の楽器のメンバーも目を奪われる。


 ジャーンッと音を鳴らし、最後にジャッと弦を抑えて音を止めた内山先生。ニコニコと決めポーズをしている先生に向かって、自然と拍手が湧き出した。

「マジでカッコいいって、涼華ちゃん!」
「最高じゃん!」
「ふははは、もっと褒めろ!!!」

 軽音部のプレハブ小屋の隣にある武道場。そこで練習をしていた空手部も数人が外に出てきており、少し離れた位置から拍手を送っていた。



 その後、先生も含めて様々な曲の練習をした俺たち。
 ギターが3本もあるバランスの悪い俺らの曲を、夕暮れの校舎に向かって強く響かせ続けた。



< 4 / 18 >

この作品をシェア

pagetop