響け、僕らの『青春!恋慕唄』
「西園寺先輩、おはようございます」
「あぁ……おはよ、神崎」
今日もしっかり神崎と一緒になる。
神崎は前髪をピンで留めて、長髪は後ろで団子にして結んでいた。
「お前……そんな髪型なのにイケメンだよな」
「そんなって、貶していますか」
「褒めてんだよ。俺と変わってくれよ。西園寺って名前と」
「でも西園寺先輩、神崎顔でも無いですよ」
「…………」
こいつ、しれっと酷いこと言いやがる。
じゃあ俺は一体、何顔なんだよ。誰か教えてくれよ。
校門を抜けて昇降口に向かうと、今日も立哨当番の教師が数人立っていた。内山先生が居ないことに何故かホッとしながら教師の前を通り過ぎようとすると、神崎が教師に呼び止められる。
「お前、1年だよな。その髪型校則違反なんだけど」
「え?」
声を掛けていたのは数学担当の伊東先生。
そんな伊東先生の言葉に他の教師たちもウンウンと頷いていた。
「ロン毛の方? 髪型の方?」
「両方って言いたいとこだけど、ロン毛は別に違反じゃない。その団子の方だな。女子生徒も団子は禁止なんだ。男も同じだ」
「ふーん、あっそ。分かった」
「あっそって……お前…」
俺ら先輩には敬語なのに、何故か教師にはタメ口の神崎。
それに少しの疑問を抱きつつ、俺は黙ってスニーカーから上履きに履き替える。
昇降口の中に入った神崎は手慣れた手付きで団子を崩し、いつもの緩い1本結びに直した。
男の俺でも感じる、神崎のイケメンオーラ。
俺自身が持っていないもの全てを持っている神崎に対して、何だか妙に心がモヤっとした。
「団子くらいで煩いですね。これだから教師は嫌いなんです」
あ、内山先生は除いて。と付け足して、神崎も上履きに履き替える。
小さく溜息をついた神崎は、「じゃあまた、放課後に」と言って俺と別れ……神崎のことを待っていた女子たちの輪に入って行った。
「……はぁ」
溜息をつきたいのは俺の方だ。
何だよ、神崎ばっかり。俺も女子からモテたいんだけど……。