ポジティブ☆シンパシー
 にしてもなぜこんなところで。自分と話しているところをそんなに周囲に見られたくないのか。見られたくないんだろうな。
 分かっていながらも少々ショックを受けつつ中に入ると、それを察したように太陽が答えた。

「わざわざごめん、あいつらに見られるとすぐ『どういう関係』とか『付き合えよ』とか騒がれるからさ」

「なるほど」

 勝手に毎日呑気そうだなと思っていたが、騒がしい友達の相手もなかなか大変そうだ。

「でも先生に見つかったら怒られないかな」

「大丈夫、ほぼ物置きと化してて使われてないし、中から鍵かけられるし」

 ガチャリと鍵をかける太陽。この手慣れ方。

「もしかしていつも使ってる?」

「うん、一人になりたい時に休んでる」

 悪い生徒じゃん。見た目通り不良じゃん。内心で大袈裟にツッコむ。
 でも気持ちは分かる。

「なんか秘密基地みたいだね」

「そう、まさにそんな感じ」

「いいね」

「あ、使いたかったら青井さんも使っていいよ」

 別に肯定しただけで、『いいな』と羨ましがったわけではないのだが。確かに休めるものなら休みたいが──なぜ自分なのだろう。アイスクマ好きといい、人見知りといい、

「私に教えていいの?」

 水姫が思わず尋ねると、太陽は「あ」と口をつぐんだ。あって何だあって。

「なんか自然と教えてたな。青井さんはなんとなく、バラさないでくれるような、話を聞いてくれるような気がして。なんだろう、俺と似たものを感じるからかもしれない」

 なんかとかなんとなくとか曖昧だな。あと秘密基地という自分のテリトリーに入った途端、饒舌になった気がする。

「あっいや、俺が勝手にそう思ってるだけだから気にしないで」

「うん、ありがとう」

「え?」

「あっううん、何でもない」

 水姫も自然と礼を言っていた。不快ではなく、少し、いやかなり嬉しかったからだろう。真逆だと思っていた人から似ていると思われていたなんて。自分と話したくないだろうと思っていた人が自分と話したがっていたなんて──ますます自分である理由が分からなくなったので、考えるのをやめて水姫はスマホを掲げた。

「じゃあ交換しよう」

 といっても方法が分からないのだが。

「あれ、どうやるんだっけ」

 やったことがあるけど忘れたという体で首を傾げる。

「えっと、ここのQRコードを出して……」

 太陽が近付く。この程度で手汗が凄い。バレたくない。気にするほど、二人の手が不意に触れる。
 太陽も手汗をかいていた。

「あっ、ごめん」

「ううん。QRコードか、便利だね」

 水姫はまたしても安心した。そして理解した。確かに自分たちはどこか似ている。

「便利だけど、もしかして青井さん、LIME交換したこと」

 そこでチャイムが鳴り、水姫は質問に答えることなく鍵を開けて廊下に出た。でもやっぱり無視はできず、前を向いたまま答えた。

「勿論ないよ」

「そっか」

 隣を歩く太陽は、心なしか嬉しそうだった。
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