ポジティブ☆シンパシー
 約束の日曜10時、水姫は一応一張羅の黒のフリルワンピースを着て、ショッピングモールの入口近くの椅子に座って待っていた。

「おはよう、遅れてごめん」

「ううん、おはよう……あ」

 やって来た太陽を見て、水姫はつい固まった。太陽も黒いTシャツだった。変にお揃いみたいになってしまった。暗い人あるある、黒い服着がち。別に太陽は暗いわけではないが。
 太陽もそのことに気付くと、大袈裟に顔を歪めた。

「あぁ、ミスった……俺いっつも人と服装被るんだよ。今日も一応白と黒で迷ったのに。なんで黒選んだんだ……」

 やっぱり結構暗いかもしれない。

「いっいいよ、微妙に違う黒だし!ほら行こう!」

 水姫は自分らしくない明るい声を出しながら立ち上がる。
 すると急に太陽が一言、「あ、ワンピース」と発した。

「ん?うん、ワンピースだけど」

「うん」

 水姫の足元を見ながら頷き、それきり黙り込む。何なんだ。虫を見て「あ、虫だ」と言うのと同じようなものだろうか。いや、自分は虫じゃないのだが。
 気にせず水姫はエスカレーターに乗った。太陽は無言でついてくる。学校以外の場所だからか余計に気まずい。クラスメイトと休日に一緒にいるこの状況にパニックを起こしそうだ。目が合わないように前を向き続けるが、少しふらつき、手すりで踏み留まる。

「青井さん、もしかして体調悪い?」

「いやっ全然!」

 変な気遣いをさせてしまいつつ、ガチャガチャコーナーまで列になって無言で歩く。端から見たらまるで知り合いには見えないだろう。LIME交換までしたくせに、距離が遠すぎてお互い失礼だ。これで目的のガチャガチャが無かったらますます気まずいが──
 ──無かった。何十台もあるのを隅から隅まで確認したが駄目だった。最悪だ。わざわざ二人で来た意味がない。これから一体どうやって過ごせば。太陽はカラオケを断って来てくれているのだから、せめてカラオケよりは楽しくなるよう努力しないと──というか太陽はどこへ。アイスクマ探しに夢中で、いなくなったことに気付かなかった。
 ガチャガチャコーナーから出ると、太陽は通路の真ん中でうずくまっていた。

「う……」

「えっ大丈夫!?具合悪い!?」

「いや……」

「じゃあショックを受けたとか!?」

  アイスクマがなかったこととカラオケに行けなかったこと、どっちに対するショックだ。正直に吐き出させるつもりでいると、ぐううと太陽のお腹が鳴った。

「ん?」

「ごめん、今朝寝坊して……朝食抜いてきたから空腹が凄くて……」

 何をしているのだろうこの人は。

「アイスクマあった……?」

「なかったし、今それどころじゃないよ。そこのミックでいい?立てる?」

「うん……」

 支えようかと思ったが、太陽は自分でふらふら歩いていったので、今度は水姫が後ろからついて行った。
 普通なら少し苛つくところかもしれないが、水姫はそれ以上に胸の高鳴りを感じていた。
 何だこれ、面白い。教室で取り繕っている時より100倍面白い。この調子なら今日一日なんとかなるかもしれない。もはやガチャガチャのことなどどうでもよくなっていた。
 今はただ、この人のことがもっと知りたい。
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