恋人時代 コーヒーカップに映った君へ
 あれは高校三年の時だった。 進路に悩んでいた俺は学校帰りに橋の上から川を覗いていた。
大学に進むべきか、就職するべきか、、、。 両親は離婚していて母親は昼も夜も働いていた。
 そんな中でも母親は俺に言ったんだ。 「しっかり勉強して世の中のために働きなさい。」って。
それでも俺は決められなくて毎日、川を覗いていた。 死ねたら楽だろうなとも考えていた。

 そんな時だよ。 前から好きだった先輩が大学で行き詰って自殺したのは、、、。
その知らせを聞いた時、俺は学校から慌てて病院へ飛び込んで行った。 先輩はベッドに寝かされていた。
「顔は見ない方がいい。」 誰もがそう言った。 でも俺は信じられなくて顔を見たんだ。
 この世の物とは思えないくらいにぐちゃぐちゃだった。 飛び降りたんだからしょうがない。
先輩 木村涼子は幼馴染の一人でずーーーっと近所に住んでたんだ。
今でも忘れられない俺の初恋の人だ。 その人が飛び降りて死んでしまった。
それで俺は就職することを決めたんだ。 相手は地方銀行さ。
 涼子のことを忘れたくて必死になって働いた。 でも今から思えばそれは無駄だった。
だって今でもこうして思い出すんだからね。 涼子はギターを弾いていた。
 高校でも教室にギターを持ち込んで昼休みになるとミニライブをやってたっけ。 デビューするんじゃないかって噂だったよね。
俺もよく聞かせてもらった。 一緒に歌ったことも有る。
 そんな先輩が自殺したんだぜ。 信じられなかったよ。
それから20年30年経っても変わらずに覚えている。 そう、形見に貰ったギターもそのままだ。
今も物置の隅に眠っている。 今度出してやろうか。
 コーヒーを飲みながら涼子のことを思い出すんだ。 後で結婚したのは実は涼子の妹だ。
何て言う皮肉なんだろうねえ? 時のいたずらか。
< 2 / 13 >

この作品をシェア

pagetop