雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
「……やっぱり、変、でしたか」
ドレスは文句なしに美しいし侍女たちの腕もすばらしかったが、もとの素材が自分なのだ。どう着飾っても限界というものはあるわけで、エーデルのお眼鏡にはかなわなかったのだろう。
こわごわ尋ねると、エーデルは「あ、いや……」としばらく思案してから「似合っている」とそっけなく口にした。
スマートな彼のことだから、あの華やかな笑顔で褒められるか、とくに言及しないかのどちらかだろうと思っていた。かなり雑な褒め言葉にウララは肩透かしを食う。
――返事に困ってしまうので、お世辞でも褒めるならもっとちゃんと褒めてください。
そうは言えず、ウララはあいまいに微笑んだ。
「このドレス、殿下が選んでくださったと聞きました。ありがとうございます」
「……どういたしまして。そんなことより、到着からずっとあわただしくてごめんね。疲れているだろう。あまり長くはならないと思うから、付き合ってくれるとありがたい」
「もちろんですわ」
会場は王城の広間だと聞いている。並んで歩きながら、ウララはエーデルに気づかれないように彼を観察した。
正装と思しき白いスーツに身を包み、毛皮のついたマントを羽織っている。とりたてて華美な装飾はないシンプルな装いだが、エーデルの麗しさを引き立てるには十分すぎるほどだ。
当の本人も前髪を上げただけだというのに、これほどまでに目を引くとは。あの花のような笑顔のせいで気づかなかったが、元の顔立ちはかなり涼しげらしい。きりっとした目元の碧眼にひとたび見つめられて、ときめかない人はいないだろう。
なるほど、これは婦女子が騒ぎ立てるのも納得だとウララはうなずく。
ただ、エーデルの表情は先ほどまでよりはだいぶ固いように感じた。
御年十七歳のエーデルだが、昨年急逝した父王に代わって政務を取り仕切っていると聞く。まだ成人していないため王位を継いでいないものの、実質フローラ王国のトップに君臨する者。想像つかないほどの重圧が彼の肩にのしかかっているということは、今日会ったばかりのウララでも理解できる。
「緊張している?」
おもむろにエーデルに問われ、ウララはぱっと顔を上げる。
見下ろすエーデルの顔には、心配の二文字が浮かんでいた。あれこれと考えごとをしていたせいで、自分の表情も固かったのだろうか。