雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
エーデルは話すことを思案しているようだった。ウララがじっと待っていると、彼の考えがまとまる前に使用人がやってきた。そろそろ夜会をお開きにするから、閉会の挨拶をしてほしいと伝えてすぐに去っていく。
「もうそんな時間か……」
エーデルは立ち上がり、庭園の時計台に目をやった。その横顔が名残惜しそうに見えたのは、ウララがそう思っているからなのだろうか。
「いろいろ聞きたいことがあると思うけれど、日をあらためてまた場を設けるから待っていてほしい。僕もきみに話したいことがある」
エーデルはそう言って、ウララに手を差し出した。彼が話したいことを聞くのが少し怖くて、でもその気持ちを悟られないように願いながらウララはその手を取った。
***
夜会が終わって案内された部屋は、これまで入ったどの部屋よりも大きく、華やかだった。アイルーが言っていたとおりだ。
ほかの部屋と同様、内装や装飾品は白で統一されている。テーブルには応接室と同じように花瓶に生けられた花が置かれていて、窓際には鉢植えの植物が並び、緑のツタがたれさがっている。豪奢だが目にもやさしい空間で、ここで生活する人のことを考えて整えてくれたのだろうと思うと心が温まる。
「いつか、僕を思いながら花飾りをつくってくれる日が来ることを願っているよ」
エーデルは去り際、そんなことを言っていた。
頬は熱く、心臓があまくてあまくて仕方がない。さっきたくさん食べたチョコレートケーキのせいだろうと思いたいが、そう思えば思うほど、エーデルに向けられた笑顔や言葉の数々を思い出してしまう。
――ただの身代わりにしては好待遇すぎるわ。まるで本物の恋人のようなふるまい……
聞きたいことはたくさんある。近いうちに話す機会を設けてもらえるなら、質問をまとめておかないといけない。でも、彼の言うとおり、今日は疲れてまともに考えることもできなそうだった。
シスに引っ張られて入浴を済ませ、やわらかなベッドに飛び込むとすぐに夢に沈んだ。