雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
episode.07 雨ふらしの公女を呼んだ理由①
翌朝。
夢すら見ぬほど深い眠りから目覚めると、太陽がてっぺんにのぼる頃だった。ベッドのすぐ横の大きな出窓から、眩しい陽光が降りそそぐ。
眠りの浅いはずの自分がこんな時間まで……驚いて慌てて上半身を起こそうとし、そういえば昨日の夜にエーデルから「明日は早朝に出てしまうから、僕に気は遣わず、ゆっくり眠ってね」と言われたことを思い出す。
ぼすん、と再び仰向けにベッドに身体を投げる。
花の模様が彫られた豪奢な白い天井が目に入り、夢のような時間がまだ続いていることを理解する。
「あと二年……十八歳までの人生ってことね……」
予定がないとはいえ、なにもせずにごろごろしているわけにはいかない。ベッドから起き上がり、出窓に手をかける。すこし重い手ごたえだったが、ぐっと腕に力をこめると勢いよく窓が開く。湿度のない、しかし夏前にしてはぬるい風がわぁっと通り抜けた。
もしエーデルが生贄に選ばれたら、同じ呪い持ちのウララが身代わりになる。そのための婚約。
ウララの胸中にはやはり、事実以上の感情はない。事実上の余命を宣告されたようなものなのに、ウララの心は穏やかであった。
美しい景色においしいごはん、それから、やさしい王子。これまでの十六年間の人生で経験したことのないことばかりが一夜で一気にその身に降りかかったおかげで、身体中の細胞が生まれ変わったような心持ちなのだ。窓外の景色だって驚くほどきらめいて見えて、生まれて初めての経験の一つに思える。
そう、あのやさしい王子の笑顔に裏があったとしても、ウララはまったく悲しさを覚えていないのだ。
もとより実の両親や兄たちに冷遇されてきた身。泣いたり縋ったりはもうとっくのとうに飽きてしまったのだ。