雨ふらしの公女は花の王子と恋をする


 ふと、壁にかかった花冠が目に入る。
 きのうエーデルからもらった花冠。そこらへんに置いておいたら花がつぶれてしまうような気がして、シスに頼んでとりあえず壁にかけてもらった。きのうよりしおれているように見えてきゅっと心が痛む。
 贈り物なんてウララの人生で初めての経験だった。せっかくだからずっと飾っていたいが、生花だからすぐに枯れてしまうだろうか。
 シスに聞いたところ、生花を長持ちさせる方法を試すなら、ばらばらにして茎を切りそろえ、水を入れた花瓶に挿しておく必要があると言っていた。せっかくエーデルが時間をかけて編んでくれた花飾りをばらばらにはしたくないから、どうしようかと思案していたところだった。
 王宮の侍女ならいい案を知っているだろうか。そんなことを考えていると、扉がノックされ、シスが入ってきた。

「おはようございます、お嬢さま」

 はにかむお下げの少女は、王宮の侍女らと同じ濃紺のワンピースを着て、白いエプロンをつけている。おろしたてののりのきいた生地が眩しい。

「おはよう、シス。起こしてくれてもよかったのよ」

 ウララは口をとがらせてそう言った。ウララのことを慮って寝かせてくれていたことなど当然わかっているが、そうは言っても寝すぎてしまったことは少し恥ずかしい。

「きのうご到着されてから休むまもなく夜会に出席されたので、お疲れではないかと思いまして。殿下にも起こさなくていいと命じられたんです」
「殿下にも?」
「ええ。今朝お話ししたときには、ふだんより早めに城を出なければいけないからとおっしゃっていました。あ、いま朝食をお持ちしますね」
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