雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
ウララだけではなく、シスにまで直接口添えしていたことに驚く。本当に配慮の行き届いた人なのだろう。
たしかにきのうの夜、別れ際に、早く出てしまうから朝食は一緒に食べられないと言われた。
ということは、裏返したら、もし予定がなければ食事は一緒にとりたい、ということなのだろうか。
わざわざ身代わりと? とウララは疑問に思うが、王宮内にはいろんな人が働いていて、人の出入りも多いから、きっと体裁を気にしてのことだろうと納得する。王子たるもの、たとえ雨ふらしの公女との婚約であっても、蔑ろにしているなんて噂を流されたらたまらないだろう。
「殿下がいい人そうで安心いたしました」
あれこれ考えるウララをよそに、シスはのんびりそう言った。
いい人。
たしかにいい人であることは間違いなかった。
それにしても、あの向けられた甘い言葉の数々や、大輪の花のような笑顔を思い出すと、どうにも腑に落ちないウララであった。いざというときの身代わりにする罪悪感だったり、好きでもない人への無関心や嫌悪感だったりはエーデルからは感じられなかった。王子だから、そういう感情もうまく隠せるというのだろうか。
誰に対しても穏やかで、笑顔の絶えない人であることは間違いないと思うものの、なにもあそこまで演技しなくても……
そう考えると、彼から向けられた純粋な好意を、いまいち素直に受け取れないのであった。
「お嬢さま? も、もしかして、やっぱりなにかイヤなことを言われましたか……?」
ぱっと顔を上げると、シスが不安げにウララを見上げていた。
「あ、ううん、違うの。まだちょっと眠いみたい」
「そうですか……ならいいのですが」
余計な心配をかけたくないから、シスには身代わりのことを話していない。たった一人の味方である彼女に相談できないとなるとどうすべきかと思案していると、城の使用人がやってきて、エーデルが昼食に呼んでいると言った。