雨ふらしの公女は花の王子と恋をする

episode.08 雨ふらしの公女を呼んだ理由②


          ***

 慌てて支度を済ませ、エーデルが待つダイニングへと小走りで向かうと、彼はきのうと同じ顔で微笑んで出迎えた。

「ごめんね、急に」
「お待たせしてしまい申し訳ございません。公務は午前中で終わりだったのですか?」
「いや、午前中の仕事が早めに終わったから、いったん城に帰ってきたんだ。このあともまた外に出なければならないんだけど、その前にウララ嬢の顔を見ておきたくて」

 エーデルはそう言って、あの華やかな笑顔をこぼした。それは紛れもなくウララに向けられている。
 座ろうか、と言われ、ウララはエーデルの正面に着席した。
 広いダイニングルームで、二人きりで昼食をとる。食事の合間に振られる世間話は、どれも取るに足らない雑談だった。
 今日は暑くてまいったよ。今朝、虹がかかっていたんだ。部屋はどう? なにか気になることがあれば、僕でも使用人でも誰でもかまわないから遠慮なく言ってね。
 ウララが自分からなにか話す様子を見せないからか、エーデルは世間話とウララへの気遣いを交互に混ぜこんで、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
 ウララは適当に相槌を打ちつつ、頭では違うことを考えていた。

 ――近いうちに話をしたいと言っていたけど、あれは今日ではないのかしら。わざわざ急いで王宮に戻ってきたのだから、なにか用があると思ったのだけど……

「ウララ嬢?」
「あ、失礼いたしました」

 考えごとに夢中になっていたら、いつの間にか視線が手元のパンに落ちていた。ハッとして顔を上げると、澄んだ碧眼がウララを見つめていた。
 ウララは意を決して口を開く。
< 27 / 47 >

この作品をシェア

pagetop