雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
「その……ずいぶんと単刀直入な言い方をするから驚いた。きみは思っていたよりも勇ましい人なのかもしれない」
エーデルはそう言って笑った。
すぐにウララを見た瞳には、先ほどの鋭さとは違った色をともしていた。
「二年後に大きな災厄が訪れることはウララ嬢も知っているよね」
「はい」
「その災厄の影響がすでに各地で出はじめている。たとえば、中央区の村々では日照りが深刻化しているんだ」
「日照り……」
ウララがそうつぶやくと、エーデルはうなずいた。
たしかに、先ほど窓を開けたときに感じた日差しは目を焼くような鋭さで、真夏のそれであった。エーデルの会話にもあったとおり妙に暑いとは思っていたが、日照りの影響かとウララは納得する。
「中央区全体で真夏でもないのに日差しがきつくなっている。わがフローラ王国は農業大国だろう。農産物の生産量が落ちていて、経済に影響が出ているんだ」
日照りの話ははじめて聞いたが、東区でも災厄の影響を感じるときがあったから、この話は嘘ではないだろう。
そんなことを考えていると、エーデルが深く息をついた。
「そこでウララ嬢、きみだ。雨ふらしの力でやせた土地を助けてほしいんだ」
ちらりとエーデルをぬすみ見る。きつく引き結んだ口元、眉間に寄ったしわ。やけに表情が固い。
――嘘ではないけれど、どうやら本当の理由ではなさそうだわ。
ただウララの力を借りたいだけなら、婚約までする必要がない。エングー公爵家に手紙でも寄越して、助力を要請すればよいだけだ。
エーデルの不審な様子が気になるものの、いますぐ害そうという意思は感じられないからとりあえず気にしないことにする。
「わかりました。私にできることがあるなら、このたびの婚約、謹んでお受けいたします」
「ありがとう。心強いよ」
エーデルはほっとしたように肩の力を抜いた。
――いざというときの身代わりになってくれないか、なんて気軽に言えないものね。
やはりちくりと胸を刺すこの痛みの正体がなんなのか、ウララはわからなかった。