雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
episode.09 偵察開始
「変です」
ふたたび公務で外出するエーデルを見送ってから部屋に戻ると、開口一番にシスはそう言った。
彼女に目を向けると、両頬を膨らましてぷりぷりしていた。ウララは目をぱちくりさせる。
「なにが変なのかしら?」
「だって、おかしいじゃないですか! 日照りで悩む農家を助けるためだったら、エングー公爵家にどうにかしてくれと命令すればいいじゃないですか。わざわざお嬢さまと婚約までする必要はありません!」
「それは……」
ウララは口ごもる。
シスの言うとおりであった。婚約者を選んだ理由を話すエーデルは、どう考えてもなにか隠しごとをしている雰囲気だった。まあもとより、ウララははなから感づいていたのだが……
そんなことよりも、とウララ内心でつぶやく。
シスがちゃんとエーデルの言ったことを理解して、彼の違和感にも気づいていることをうれしく思っていた。侍女勤めをはじめたばかりのころのシスは幼く、素直な性格から他人の言うことを鵜呑みにするばかりで、少々危なっかしく感じていたのだ。
そんなことを考えていると、
「なんで笑っていらっしゃるのですか! 私は真剣に悩んでいます」
と、シスが口をとがらせた。