雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
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シスに連れられてウララは、王宮内で働く人々の会話をそれとなくぬすみ聞きしようと試みた。しかし、みなウララの姿にすぐに気づいて、近寄ってくるのであった。
「ごきげんよう」
そして、目が合ってしまったので挨拶すると、「なにか足りないものでもありませんか?」と聞かれる。
「いえ、とくに大丈夫よ。ありがとう」
「いつでもお申し付けくださいませ。わたくしどもはみな、ウララさまが快適にお過ごしできるように殿下から命じられておりますゆえ」
使用人はみな、そんなふうに言うのであった、
エーデルはウララが中央区になじめているか本気で心配しているようだし、使用人たちはみな親切で、ウララを王子妃として心から敬ってくれる。
「かれらに怪しいところはありませんね……」
シスはそんなことをぶつぶつつぶやきながら、王宮の廊下を歩いていた。
「ねえシス、殿下もみなさんも本当に親切よ。もしかしたら殿下にはなにか事情があるのかもしれないけれど、きっとまだ言えないだけなのよ」
「はい……そうかもしれませ……って、お嬢さま、こっち!」
なにかに気づいた様子のシスが慌ててそう言うと、ウララの手を引っ張って廊下の柱のほうへ連れていく。ちょうど日の当たりづらい場所に隠れるように立っていると、遠くから、エーデルとアイルーの声が聞こえてきた。
「ウララ嬢の様子はどうだ」
「ええ、とくに問題なく」