雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
驚いてシスを見ると、彼女は真剣な顔でうなずく。
「本当か?」
「はい」
「部屋の内装は気に入ってもらえたのだろうか。その……彼女の好みを知らないから、年齢の近い使用人や、流行に敏感な母上に聞いて設えたのだが」
二人の表情までは見えないが、エーデルの声音は明らかに暗い。
「喜んでおいでだったようですよ」
一方のアイルーは、きのうと変わらず冷淡で事務的な口調だ。
「ならよかったが……」
エーデルは息をついた。
女を一人迎え入れることが、ため息をつくくらい面倒だっただろうか。ウララが内心青ざめていると、エーデルはふたたび口を開いた。
「しかし本当に気に入ってもらえているのだろうか。食事もいまのところ問題なさそうだと料理長から聞きましたが、食べものの好みは甘いものが好きだということしかわからないんだ」
「……直接ご本人に聞けばいいじゃないですか」
「それができないからおまえに聞いているんだよ!」
エーデルの勢いにウララは目を丸くする。隣を見ると、シスも同じようにびっくりして固まっていた。
「あ」
「なんだ! やはりなにかあったのか!」
「聞くところによると、殿下からいただいた花冠をどうすればいいのか悩んでいるようです。このままだと枯らしてしまうけれど、どうすれば長持ちするのかわからない、と。城の使用人がウララさまの侍女から聞いたと申しておりました」
「なるほど、それならドライフラワーにするとよいと教えてあげてくれ。庭師のジャンが詳しかっただろう。彼女の侍女の……シスに彼のことを教えておいてくれ」
――驚いた。この人、シスや庭師を名前で呼んだわ。
きのう、ウララがエーデルと対面したときは、シスは侍女としてうしろに控えていたものの、彼女のことを紹介したり、彼女が直接エーデルと会話をすることはなかった。そのうえ、ウララはエーデルの前でシスの名前を呼んだ覚えはない。
きっとアイルーから名前を聞いたのだろうが、わざわざただの使用人の一人でしかないシスの名前を覚えていて、さらには名前で呼んだのだ。ウララはそんな彼に目をみはる。
シスも驚いたようで、エーデルを凝視していた。
「結局、なーんにもわからなかったですね」
部屋に戻ると、シスはつまらなさそうにそう言い、掃除を再開した。
エーデルにもらった花冠は、後日、彼らの勧めどおりドライフラワーにすることにした。