雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
――殿下が忙しいのはきっと、災厄のせいよね。
もしアイデン村に雨をふらせて大地に潤いが戻れば、エーデルの悩みの種は一つ消えるのかもしれない。そうすれば少しは身も心も休めるのだろうか。そもそも、この呪いが役に立つなんて、そんな夢のようなことが本当にあるのだろうか。
ウララが悩んでいる間、エーデルは一言も口を挟まなかった。そばに控えるアイルーがなにか言いたげな視線を寄越すだけ。掛け時計が時を刻む音だけが部屋に響き渡る。
しばらくして、ウララは口を開いた。
「……ご存知のとおり、私が外に出ると雨がふってしまいます。アイデン村だけではなく、周囲一体雨雲に覆われることになりますが、よろしいでしょうか。呪いの大きさからして、豪雨にはならないとは思うのですが……」
「うん、それは想定内だ」
「でしたら、謹んでお受けいたします」
ウララがそう言うと、エーデルはほっと息をついた。
「助かるよ。あ、そうそう、僕も行くから安心してほしい」
「え、殿下もいらっしゃるのですか」
「え……あ、いやかい……?」
ウララを見るエーデルの瞳が、不安げに揺れた。親に見捨てられた子どものような顔をするから、ウララは思わず「え?」と言ってしまう。