雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
「ウララ嬢?」
「あ、いえ、ごめんなさい……」
不思議な様子で見上げるエーデル。待たせてしまっては申し訳ない。しかし、頭ではわかっているのに体が思うように動かないのだ。
エーデルと初めて会ったあの日、彼は突然雨がふったことに驚きこそすれど、ウララを罵ったり蔑んだりすることは決してなかった。向けられた瞳が嘘ではないと信じている。でも、もし今日「気味が悪い」と言われてしまったら……宙に浮いた右手は力なく下がり、スカートの裾を握りしめる。
ウララの顔色がすぐれないことに気づいたエーデルが、そっと口を開いた。
「僕が無理やりお願いしたことだけど、もしいやだと思う気持ちが少しでもあるなら、いまからでも断ってくれてかまわないよ」
「そ、そんなことは……」
考えていたことが見透かされていたようでウララは焦る。
エーデルが、ウララの手をそっと握った。
「でも、いまウララ嬢が思う不安な気持ちが、いままできみがおかれていた境遇を端にしているのであれば、いまはどうか僕の手を取ってくれないかい。きみが考えるようなことは起こらないと誓うから」
こわごわと顔を上げると、そこには穏やかな瞳があった。この人の言うことを、向けてくれる瞳を信じてみたい。
ウララはエーデルの手をとり、足を踏み出した。