雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
そろそろと顔を上げる村人たち。ウララはようやく意思疎通がとれたことに安心して、息をつく。
「そのままだと濡れてしまうから、どうか立っていただけませんか」
今度は雨にかき消されないようにはっきりと言った。すると、おそるおそる、といった様子で人々は立ち上がった。
エーデルをぬすみ見ると、とくに動揺した様子はなく、いつもどおり穏やかな笑みで村人たちに声をかけている。どうやら彼らの労をねぎらっている様子だが、ますます村人たちは恐縮してしまっている。
いままで家族とシス以外の人間とほとんど会話したことがなかったウララは、公爵という階級が世間ではどういう立ち位置なのか、その階級に身を置く自分はどう振る舞うべきなのか、もちろん頭では理解はしているつもりだったが、コミュニケーションを通して学ぶ機会がなかった。
――これが王家の人間。わたしがなるべき姿。
そんなことを考えていると、いつのまにか雨足が強まっていた。
「あ、あの、殿下、みなさんが濡れてしまいますわ……」
「ああ、そうだね。じゃ、ウララ嬢の仕事は終わったし、僕たちはこのあたりで失礼するよ」
エーデルはそう言うと、軽やかにウララの手を取った。
帰り際、エーデルに手を引かれながら振り返ると、村人たちはまた地面に伏し、ウララたちを見送っていた。
「ありがとうございました」
人々は口々にそう言う。
馬車に戻ってからも、しばらくは彼らの声がウララの耳を離れることはなかった。
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