雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
「あ、いえ」
やはり居心地の悪さを覚え、パッと目をそらす。エーデルは「そう?」と言って微笑んだように見えた。そして、続きを促すように肩をすくめる。
そんな彼を視界の端でとらえたウララは、逡巡してから口を開いた。
「村人と対峙する殿下を見て、わたしは自分の立場を理解していなかったと痛感しました。正直に申し上げると、自分の境遇は呪いのせいと半ば諦めていたのですが、それこそ随分甘えた態度だったと反省しています。これからは、その……身代わりとはいえ殿下の婚約者として、もっとしっかりします」
決意のこめてエーデルを見上げると、彼は満足そうに笑った。しかし、すぐに「ん?」と首を傾げる。
「身代わりってなんのこと?」
「あ、いえ、その……」
――まずい。まだ殿下本人から言われてないのに、身代わりのことを言ってしまったわ。
どう言い逃れしようか必死に考えをめぐらせても、いい案は思い浮かばない。いっそのこと疑問に思っていたことをすべていま尋ねてしまおうかなんて考えていると、エーデルがのんきに口を開いた。
「そうだ。ちょっと寄りたいところがあるんだけど、着いてきてくれないかい」
「あ、はい」
いまのやりとりがなかったかのような様子に拍子抜けして、ウララはついうなずいてしまった。
エーデルが馬を操る侍従に行き先を告げると、馬車のスピードが上がった。