雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
――わたしは殿下より歩くのが遅いんだから、一人で行ったほうが早いんじゃないかしら。ジャケットまで借りてしまって申し訳ないわ……
そんな疑問を覚えつつも、エーデルに手を引かれるがままに歩く。傾斜は厳しくないが、雨のなか坂道をのぼるのはそれなりに苦労する。雨粒が傘を弾くリズムに合わせて、ウララは足を運んだ。
そういえば王宮に置いてきたシスは元気かしら、なんて考えて気を紛らわせていると、エーデルが「着いた」と前方を指をさした。
「ウララ嬢、顔を上げて。さあ、ここだよ」
エーデルの指の先には、あたり一面に花々が咲き乱れている。雨露に濡れる花々は、陽光に照らされているときとは異なる趣がある。
「わ……きれい」
ウララは感動して口元を押さえた。
「ここは中央区でいちばんきれいな花畑なんだ。ウララ嬢にもそう思ってもらえてうれしい」
「この美しい景色を守れるように、私がんばります」
「それはとても頼もしい」
この景色を見せるために連れてきてくれたのだろうか。気遣いに感謝していると、エーデルは「でもね」と続けた。
「きみを呼び寄せた理由はそれだけじゃないんだ」
歯切れの悪い言葉じりに、ウララは顔を上げる。目が合うと、ぱっと顔を逸らされてしまう。
「なんでしょうか」
――いよいよ婚約の本当の理由が聞けるのかしら。
不安に思いながら、エーデルをじっと見つめる。すると、エーデルは片手で顔を覆ってしまった。