雨ふらしの公女は花の王子と恋をする
「……一目惚れ、だったんだ」
「はい?」
蚊の鳴くようなか細い声。ウララは意味がわからず聞き返してしまう。
「ウララ嬢、きみに一目惚れをしたんだ」
こんどはウララを見てはっきりとそう言った。目が合うと、真っ赤な顔をしている。
「あの……記憶違いでなければ、私は殿下にお会いしたことはなかったかと……」
「ああ、しゃべったことはない。でも、きみを遠目で見たことはあるんだ」
それからエーデルは、ウララを見かけたときのことを語りはじめた。
いまから三年前。
世界的に猛暑が続き、ウララの生家がある東区が日照りで悩んでいたころのこと。
公務で東区を訪れたエーデルは、田畑で祈りを捧げるウララの姿を見たというのだ。
「ひどく枯れた田畑をきみが歩くと、雨がふりだした。女神の御業かと思ったよ」
当時のことを思い出しているのだろう。エーデルは遠くを見つめてそう言った。
「そんな、大げさな……」
たしかにあの頃の東区は晴れ間が続いていた。工業地区とはいえ、もちろん農家はいるし、東区でしかとれない作物だってある。悩みに悩んだ父、エングー公爵家当主が、呪いと蔑む自分の娘を外に出るよう差し向けたのだ。
ウララにとっては、生まれてはじめて、雨ふらしの呪いが役に立ったときだった。あのあと父だけではなく、外の人々に気味悪がられて余計風当たりが強くなったのだが。
その姿を見ていたのなら、今回こうして呼び寄せられたのは納得がいく。あのときと同じように雨をふらせればいいのだから。
――でも一目惚れって。
ウララを見つめるエーデルの瞳は、たしかに愛しいものを前にしているような雰囲気に思えなくもなかった。
「噂ではきみのことを聞いていたけれど、本当にそんな強い力を持った人間がいるのかと驚いた。でも、惹かれたのは力の強さではないよ。感謝してこうべを垂れる老人に、きみは地面に膝をつけてなにか話していただろう。衣服が泥まみれになるのもを厭わずに。それが印象的だったんだ。どれだけ美しい心の持ち主なのだろうかと、話してみたいと思ったんだ」
「そんなたいした人間では……」
「たしかにまだきみがどういう人間なのかはわからない。でも、やれることをやりたいと言ってくれたあの瞳を見て、やはり僕があの日目にした光景はまやかしでもなんでもなかったんだと思ったんだ」
まっすぐな瞳を向けられ、ウララは自分の頬が熱くなるのを感じる。