ブライアンのお気に入り~理想を抱いてアメリカにホームステイしたら学園のキングに目を付けられた件~

お嬢ちゃんはピュアだから

 ハンナと別れた後。日が暮れてからブライアンの家を訪ねたカザネは

「そんなわけでハンナのことも、ミシェルのパーティーに連れて行ってあげて欲しいんだ」
「俺はいいけど、あの引っ込み思案がよくそんな気になったな」
「なんか話の流れで、私の激励が思いのほか響いたようで」

 カザネの言葉にブライアンはニヤニヤして

「普通は相手の反応を考えて言葉を濁すところ、ズバッと言っちゃうもんな。お嬢ちゃんは」

 いつもならキレて返すところだが、

「うぅ、ゴメンね。自分だってできてないのに、人にばっか偉そうで」

 オシャレから逃げているのは自分も同じなのに、ハンナにばかり求めてしまったことを密かに恥じていたので小さくなるカザネに、

「別に文句を言っているわけじゃないよ。ハンナがお前に叱られてやる気を出したのは、多分正しいからじゃなくて自分のための言葉だと、ちゃんと感じられたからだろ。人はどんなに正しい意見でも、思いやりの無い言葉は受け入れないから。拒絶されなかったってことは、お前はハンナのために良いことを言えたんだよ」

 珍しく誠実なブライアンの物言いに、カザネはポカンとした。そんな彼女の反応に、ブライアンは不可解そうに首を傾げて、

「なんだよ? 人の顔をジッと見て」
「ブライアン、たまに優しい」

 いい人かもと笑ったものの、

「たまに? お前にはいつも優しくしているつもりだけど?」
「今はもう優しくない!」

 例によって首を掴まれたカザネは、即行で前言を撤回した。

 ブライアンは何事も無かったかのように話を戻すと、

「取りあえずハンナの件は了解した。ジムとハンナが来るなら、当然お嬢ちゃんも来るよな?」

 カザネとジムとハンナは基本セットなので、ブライアンがそう思うのは当然だが、

「ううん、私は大丈夫。ジムとハンナのことは気になるけど、実はおばさんにハロウィンの手伝いを頼まれているんだ」
「ハロウィンの手伝いってアレか? 仮装して来る子どもたちに、手作りのお菓子を用意してやる?」
「そう! 当日は子どもたちがたくさん来るんだって。おばさんの作るクッキーは絶品だし、楽しそうでしょ?」

 おばさんはホストファミリーとしてカザネにアメリカ文化を体験させてくれようと、あえてお手伝いを頼んでくれたのだった。英会話を学ぶだけじゃなくて、文化交流するのも交換留学の大事な目的の1つだからだ。

 そう言うと義務っぽいが、おばさんとお菓子を作ることも、それを子どもたちに配ることも、カザネは心から楽しみにしていた。

 ウキウキと言い放つカザネに、ブライアンは憐みの微笑を浮かべて

「……そうだね。お嬢ちゃんはピュアだから、欲望うずまく若者たちのハロウィンより、優しいおばさんと子どもたちに囲まれたほんわかハロウィンのほうがいいんだろうね」
「本当にいちいち馬鹿にするね!?」

 今日も今日とて自分を子ども扱いするブライアンに、

「ブライアンはせいぜいセクシーな女の子たちとハロウィンナイト楽しんで!」

 カザネは怒気も露に言い放つと、キング邸を後にした。
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