ブライアンのお気に入り~理想を抱いてアメリカにホームステイしたら学園のキングに目を付けられた件~

両想いになった途端

 そのまましばらくブライアンのキスに翻弄されていたカザネだったが、

「ぶ、ブライアン、もう本当に。また気絶しそうだから」

 再び彼の胸を押し返すと、ブライアンも今度は身を引いて

「そういやお前、怪我人だったな。ゴメン、無茶して」

 それぞれ元の体勢に戻ると

「いいけど……これで仲直りできたと思っていい? 今日からはまた前みたいに構ってくれる?」

 カザネは不安そうにブライアンを見ながら言った。ブライアンは、そんな彼女の頬に愛しげに触れながら、

「前みたいどころか、以前にも増して構い倒すよ。お前には平気に見えたみたいだけど、離れている間、本当は寂しくて死にそうだった」
「そんなに寂しかったのに、どうして離れようとしたの?」

 カザネの質問に、ブライアンは少し躊躇するような間を空けたが、

「……いきなり重いかもだけど、うちは父親が2度も離婚していて、その時のドサクサで俺も母親に捨てられたんだ」
「す、捨てられたって……ただ経済的に育てられなかったんじゃなくて?」

 戸惑うカザネに、ブライアンは皮肉に微笑んで

「もちろん経済的な理由もあるだろうけど、新しい男とやっていくために、前の夫との子どもは邪魔だったらしいよ。俺の思い込みじゃなくてハッキリ言われたからね。「お前は邪魔だから連れて行かない。あの男の子どもだと思うと憎いから」って」

 あまりに酷い言葉に、カザネは何も言えなくなった。ブライアンは表情を隠すように項垂れて

「……この話、誰にもしたことが無いんだ。うちの事情を知っている人なら説明されるまでもなくお察しってところだけど、まさか実の母親に面と向かって、そんなことを言われたなんて惨めだから。お前も誰にも言わないで」

 いつになく暗い声音に、カザネは慌てて

「う、うん。絶対に言わない」

 と返した。少し気まずい沈黙の後、ブライアンは再び口を開いて

「……まぁ、そんな感じでうちは身内がボロボロだから、愛なんて酷く脆いもんだと思うようになったんだ。例え抱いたとしても一時のもんで、自分のも他人のも、どうせすぐに消え失せるんだ。だったら最初から期待しないようにしようって」

 ブライアンはあえて大したことなさそうに、笑顔で言ってのけると、

「でも、お前にはなんかその防御が働かなかったんだ。多分リュックにオモチャを付けたお子ちゃま日本人を、こんなに好きになるとは思わなくて油断したんだろうな」

 彼の表情は柔らかく馬鹿にしたわけじゃないと分かっていたが、

「私が好きとは思えない言い草だ!」

 いつもの癖でカザネが返すと、ブライアンは面白がって

「信じられないなら、もっと愛情を表現しようか? 俺はまだし足りないくらいだし?」
「なんですぐにそっちの方向に持って行くの!? こっちはいっぱいいっぱいだよ! やめてよぉ!」

 冗談じゃなく本気でカザネを押し倒そうとしたが、

「こらこら何を騒いでいるの? 意識が戻って何よりだけど、ここは休むための部屋なんだから、元気になったからってはしゃいじゃダメよ」

 医務室の主が戻って来たお陰で事なきを得た。でもブライアンはまだカザネを構い足りなかったようで

「今日は俺がうちまで送っていく」
「えっ? 大丈夫だよ。ちゃんとバスで帰れるよ」
「具合が心配なのもあるけど、俺がまだ一緒に居たいの。いいから大人しく乗れ」
「わ、分かった」

 カザネはブライアンのジープに乗せられて帰路についた。しかしマクガン家が見えて来ると、

「ブライアン? どうしてブライアンの家に停めるの?」

 ブライアンは車庫に停車し、シートベルトを外すと、ニヤッとカザネを見て

「人に見られちゃ困ることをするから」
「ふぇっ? うわっ!? ぶ、ブライアン! 私、怪我人……!」
「軽くキスするだけだよ。怪我が悪化するほどのことはしないから」

 「離れている間、寂しくて死にそうだった」は本心だったようで、ブライアンは空白を埋めるように、それから20分ほどカザネを手と唇と言葉で可愛がった。ただ愛おしむだけの触れ合いで性的な意図は無かったが、カザネは十分目が回りそうになった。
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