ブライアンのお気に入り~理想を抱いてアメリカにホームステイしたら学園のキングに目を付けられた件~

2人でディナー

 今日のカザネは眼鏡を外しているので、転ばないようにブライアンが付きっきりでエスコートしてくれる。

 プロムではドリンクだけで食事は出ないので、おのおの夕食を済ませてから行く。カザネたちもプロムに向かう前に、夕食を食べに行った。着物姿のカザネが浮かないようにと、ブライアンは寿司屋に連れて来てくれた。

 カザネは和風の寿司屋を想像していたが、店内はやや薄暗くテーブルやイスは黒で統一されており、オシャレなバーのようだった。

(まさか人生初の回らないお寿司を、アメリカで食べることになるとは)

 高級かつ大人な雰囲気に、カザネは喜ぶよりも緊張した。例によってお金が心配だったが、今回もブライアンが奢ってくれると言う。2人で食事に行くと、いつもご馳走になってしまって申し訳ないと落ち込むカザネに

「奢るほうは恩に着せないのがマナー。奢られるほうは気持ち良く受け取るのがマナー。だから遠慮しないで素直に甘えて? すまなそうにされるよりも、笑ってくれたほうが嬉しい」

 ブライアンの優しさに、カザネは表情を和らげると

「うん。じゃあ、素直に甘えちゃう。いつも素敵なお店に連れて来てくれて、ありがとう。ブライアン」

 そうして食事をはじめたが、

「やっぱりお寿司屋さんでも、アメリカで着物は浮いちゃうかな?」

 寿司屋とは言え場所がアメリカだと、当然お客は外国人ばかりだ。ほとんどの客が洋装なのに、自分だけ着物なせいか、注目を浴びているようだった。

 しかしカザネの質問にブライアンは

「ヒソヒソ話ちゃんと聞いてみろよ。みんな「綺麗」「可愛い」「お人形さんみたい」って、お前のことを褒めているよ。寿司屋に来るくらいだから、親日家が多いんだろうな」
「そうなんだ。変じゃないなら良かった」

 ブライアンの言うとおり、よく耳を澄ませてみると、ほとんどが「素敵ね」などの褒め言葉だった。いい人ばかりで良かったと、カザネがホッとしたところで、ブライアンは改めて

「その着物、本当に似合っていて綺麗だよ。着物を勧めてくれたおば様がたに感謝だな」

 しかしカザネからすれば、自分を褒めてくれるブライアンのほうが

「ブライアンこそ堂々としていて、タキシードもエスコートもすごく(さま)になっているね。同い年なんて信じられない」
「ハッタリが上手いだけだよ。いつも自然体のお前と違って、俺は普段から虚飾にまみれているからね」

 つい自虐的な返事をしたが、カザネは困りもせずに

「虚飾だなんて言うことないのに。仮にちょっと背伸びしているんだとしても、バレリーナと同じで綺麗に見せようとする姿勢が綺麗だよ。カッコいいし、尊敬する」
「そういう発想は無かったな」

 真っ直ぐな褒め言葉に珍しく照れてしまったブライアンは、テーブルの上でカザネの手を握りながら

「……我が姫は見た目だけじゃなく心まで美しいね」
「な、何? 姫って」

 動揺するカザネと反比例するように、あっという間に調子を取り戻したブライアンは

「だって今日のお前、本当に綺麗だから。とても庶民のようには扱えないなと」
「庶民のように扱って欲しい……いつもならともかく今日のブライアンはそれこそ王子様みたいなのに、その格好で姫とか言われたら、どんな顔したらいいか分からないよ……」

 羞恥に震えるカザネに、ブライアンはトドメを刺すように色っぽく微笑んで

「そそるよ、その顔。涙目でエロいね」
「ブライア~ン!? ここお寿司屋さんだから~!」

 両想いになってもやまないブライアンの過剰な攻めに、カザネは小声で絶叫するという器用なことをさせられた。
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