ブライアンのお気に入り~理想を抱いてアメリカにホームステイしたら学園のキングに目を付けられた件~

卒業式と約束の日

 カザネの帰国からちょうど1年。6月の初旬にブライアンたちは卒業式を迎えた。奨学金の審査のために全教科でAを取ったブライアンは、最も優秀な生徒として卒業生代表に選ばれた。

 弁論大会でスピーチには慣れていたが、絶縁状態の親に感謝を述べるのだけが少し苦痛だった。周りには分からない苦さを感じながら、ブライアンは盛大な拍手とともにスピーチを終えた。

 卒業式を終えると、生徒たちは、それぞれの保護者や家族と合流した。ジムとハンナも両親から卒業祝いの花を渡されて、喜びを分かち合っていた。父親と縁を切り、他の家族も居ないブライアンだけが1人だった。

(……まぁ、俺は子どもの頃から式はいつも1人だから、今さらだけど)

 寂しさに蓋をして、その場を離れようとした時。

「卒業おめでとう、ブライアン」

 この場にあるはずのない声に、ブライアンはバッと振り返った。そこに居たのは

「……カザネ? 本当にカザネなのか?」
「髪が伸びたから分からなかった? ちょっとは変身できていたらいいんだけど」

 カザネははにかみながら、肩甲骨の辺りまで伸びた黒髪を触った。久しぶりだからオシャレしようと、今日は女の子らしいワンピースを着て、眼鏡も外していた。

「見た目もそうだけど、まさか今日会えるなんて思わなかったから。でも、こっちに来たってことは……」

 ブライアンの質問に、カザネは後ろ手に隠していた小さなトロフィーを見せると

「最優秀賞ではないけど、特別賞をもらいました! だからお父さんたち、認めてくれるって! 私の本気と、こっちで暮らすこと!」

 満面の笑みで吉報を告げた。両親の許可を得たカザネは、ブライアンたちの卒業を祝うために、無理を行って早めにアメリカに来たのだと言う。

 カザネと再会できたことも、それが今日だったこともブライアンは本当に嬉しくて

「ブライアン!? ちょっと待って!? 高い!」

 カザネをガバッと捕まえると、そのまま抱き上げて

「だってこんなの嬉しすぎて無理だ! ずっと夢見ていたことが叶ったんだから!」

 普段は感情を隠しがちな彼には珍しく、その場でクルクルと回りながら

「お前は本当にすごい! よくやった! カザネ!」

 満開の笑顔で称賛すると

「約束を守ってくれて、ありがとう」

 愛おしそうにカザネを抱きしめて1年ぶりに唇を重ねた。
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