ブライアンのお気に入り~理想を抱いてアメリカにホームステイしたら学園のキングに目を付けられた件~

待ち望んだ晴れの日

 それからしばらく2人は借金の返済を優先していたので、結婚式に当てる費用は無かった。カザネはもともと貧乏性なので、式も指輪もドレスも要らないから結婚だけすればいいと考えていた。けれど2人は先に、ジムとハンナの結婚式を見ている。

 ジムとハンナは2人と違い、大学を出てすぐに結婚式を挙げた。ブーケを手にウエディングドレスを着て微笑むハンナは、とても綺麗で幸せそうだった。

 日本では、結婚式のように多くの人から祝福される日を『晴れの日』と言うらしい。愛する者同士の結婚式は、まさに天から祝福の光が降り注ぐようだとブライアンは感じた。だからカザネにも同じように、たくさんの眩しい光を浴びて欲しかった。


 その念願の結婚式を、2人は27歳でようやく迎えた。式にはカザネの家族や、お互いの友人や仕事仲間など、本当に仲のよい人だけが呼ばれた。

 カザネの家族はブライアンと面識があった。けれどカザネの友だちや仕事仲間が、ブライアンを見るのは初めてなので

「カザネの旦那さん、イケメンすぎじゃない!?」
「もしかして俳優!? それともモデル!?」

 白のタキシードを着たブライアンのあまりの色男ぶりに、騒然とする女性陣に

「ブライアンは弁護士だよ」

 カザネの返答に、彼女たちはより驚いて

「あのルックスで弁護士!?」
「アンタ、前世でいったいどんな善行を積んだのよ!?」

 と結婚式なのに詰め寄られた。


 一方、ブライアンの仕事仲間と、はじめて顔を合わせたカザネは

「君がブライアンの天使か」

 ブライアンと同期の男性弁護士の発言に、カザネは「て、天使って?」と戸惑った。彼は思わせぶりにブライアンを見ながら

「奥さんに言うことじゃないけど、彼はモテるだろう? 女性に言い寄られるたびに、ブライアンは君の話をするのさ。『悪いけど、自分にはもう特別な相手が居るから、彼女以外は眼中に無いんだ』ってね」

 職場では完全無欠で可愛げのないブライアンを、軽くからかってやるつもりだったのだが

「ブ、ブライアン。そんなことを言っていたの?」

 恥ずかしそうに自分を見上げるカザネを、ブライアンはニヤニヤ見下ろして

「今さら驚くの? お前はもう知っていると思っていた。他の誰も目に入らないくらい、俺にはカザネしか見えないって」
「ふぇぇ!? 人前でぇぇ!?」

 人前で顎クイされたカザネは、いよいよ羞恥に震えた。そんな2人のやり取りに、ブライアンの同僚はやや呆気に取られながら

「……いや、本当にすごいな。円満に誘いを断るための方便かと思ったら、本気で彼女に夢中なのか」

 彼はブライアンを自分と同じ、ドライで合理的な人間だと思っていた。言動は完全に理性の制御下で、恋人や伴侶が居ても、溺れるほどの愛着は無いだろうと。

 けれど実際のブライアンは

「そう。コイツは俺の天使だから。この世の誰も代わりにはならないの」
「ブライアーン!? ここには私の家族と友だちも居るんだよ~!?」

 カザネに悲鳴を上げさせるほど、プライベートでは嫁を溺愛していた。それはブライアンの同僚にとって意外な姿だったが、あんがい人間らしいとかえって好感を持たれた。


 もちろんジムとハンナも2人の結婚を祝いに来てくれて

「おめでとう、カザネ! あなたたちの幸せな姿を見られて、とても嬉しいわ!」
「ハンナも遠いのにお祝いに来てくれてありがとう!」

 カザネはハンナと笑顔で抱き合うと

「このヌイグルミもウェディング用に、わざわざ作ってくれたんだよね? すごく嬉しい! 寝室に飾るね!」

 ハンナは結婚祝いに、ブライアンとカザネをイメージしたペアのヌイグルミを作ってくれた。彼女お得意のモンスターモチーフだが、2人の特徴をよく捉えている。大きくて強そうな子と、やや幼げで小さな子。モデル同様凸凹コンビだが、不思議とお似合いだった。

「それにしてもジムはすっかり変わったな」

 カザネたちが女同士で話している間、ブライアンはジムと話していた。

 ブライアンの感想に、ジムは照れたように頭を掻きながら

「ハンナは年々素敵になるから、僕も変わらなきゃって」
「他にやりようは無かったのか……」
「えっ?」

 言動は以前のジムだが、ブライアンの言うとおり、見た目は激変していた。

 身長こそ変わらないが、高校の時にハンナを護れなかった悔しさから、肉体改造してムキムキマッチョになった。タフな男を目指してスキンヘッドにし、サングラスをかけて髭まで生やした。

 美的センスに優れたブライアンからすれば、やはりジムの努力はどこかズレていたが

「いや、なんでも。強そうでいいんじゃないか?」

 ジムはもう結婚しているのだから女にモテる必要は無い。またハンナを護るためなら、(いか)つい男になるのも間違いではないと、ブライアンは自分を納得させた。

 鈍いジムがブライアンの含みに気付くはずがなく

「うん。前の僕も良かったけど、今の僕も逞しくて素敵ってハンナも褒めてくれるんだ」
「そっか。良かったな。お似合いだよ、お前たちは……」

 ブライアンはハンナに対して「アイツ、マジか」と思いつつ、やや遠い目で同意した。
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