この薄汚い世界に、何を求める。



「じゃあね、猫ちゃん」



近くの野次馬に気付かぬまま帰ろうと猫の横を通り過ぎると、〝ニャ〟と小さく泣きながら私の後ろをついて来た。



「ついて来ちゃダメだよ?」



柔らかい体を持ち上げて、さっきのベンチの下におろすも、私が離れるとまたついて来る。


撫でなきゃ良かったかも。私の住んでいる家はペット禁止だから、どんな可愛い動物も見るだけにしている。



だから猫は家に連れて帰れない。ここに居て、私が構いに行くことしか。




「ニャッ…ニャー」




ダメだと思うほどに、可愛さが増してしまう。



もう、知らないふりをして家に帰るしかない。そこで、知らない間に家に入って来てしまったということにすれば、大家さんもきっと許してくれる。


後ろは振り返らないことにして、家に足を向けた。




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