星降る夜に、あのラブソングを。
そんな日々を繰り返すこと、数ヶ月。
この頃からおじさんに心を開いていた私は、自分の事情を話しても良い気がしていた。
だからタイミングを図って、おじさんに切り出したんだ。
突然クラスで虐められ始めたこと。虐めが酷くて教室に通えないこと。担任を始め、学校の先生は一切手助けをしてくれないこと。教室に通えなくても何も言われないこと。そして、虐められている事実を知った親が、私のことを放置し始めたこと。
虐められるのは、私が悪いと言われること。
泣きながら話す私の隣で、静かに聞いてくれていたおじさん。
私が話し終えると、おじさんは小さく溜息をついたんだ。
「……柊木。虐めで悪いのは“虐める奴”だ。誰が何と言おうが、“虐められている”お前は悪くない。そんな奴らにやられて自殺でもしたんじゃ笑われるだけだ」
「でもみんな、私が悪いって言う」
「その“みんな”が間違ってんだ。お前は悪くない。……こんな狭い世界で自分の価値を見誤るな。中学校を出たらまた違う世界が見える。そこできっと、お前のことを必要としてくれる人が出てくるはずさ。だから、目先の目標は高校生になることだな。死ぬことなんて考えず、頑張って今を乗り切って、高校受験をして高校生になってみろ。状況はきっと変わる」
そう言って、おじさんは笑ってくれた。
「……」
その言葉を聞き、自然と涙が溢れ出る。
誰か1人でも、私にそう言って欲しかった。
死にたいなんて口に出しつつ、本当は間違っていないって誰かに言って欲しかった。
誰も、私になんて関心が無くて。きっと私が死んだって、誰1人何も思わない。そう思っていたから。
だから、おじさんの言葉が素直に嬉しかった。
「……おじさんに話して良かったです。私、おじさんみたいな人が中学校にいて欲しかった」
「そこの中学校は異常だ。誰1人として気にかけ無いなんて普通じゃないからな。俺が当たり前。お前の周りにいる教師がおかしい」
おじさんがふぅ……と小さく息を吐くと、高校の方からチャイムが鳴り響きだした。その音を聞いたおじさんは「お、やばい」と呟き「また話そう」と言って校舎に向かって歩き出す。
遠くなる背中に向かって「“河原先生”、ありがとうございます」と叫んでみると、驚いて振り返ったおじさんはニヤッとしながら片手を挙げ、小走りで去って行った。
「……」
“虐めで悪いのは虐める奴”
その言葉が耳に残り、私自身を力強く鼓舞する。
桜川工業高校の河原先生。
死にたいと思っていたあの頃の私が、初めて信頼できた唯一の大人だった。