星降る夜に、あのラブソングを。
「……」
武内先生と一緒に、とぼとぼ歩く街。
先生が持っていたジャケットを着せられ、無言で歩く。
星が1つ見えない夜空は、まるで私の心を表しているようだ。そんなことを思い現実逃避をしようと試みるも、今のこの状況は紛れもない現実。何も言わない武内先生の背中は、何だか酷く困っているように見える。
家を追い出された、哀れな17歳。
虐められて、親に見放されて。
私は一体、何の為に生まれてきたのか。
「……」
しばらく歩き続けると、コインパーキングに辿り着いた私たち。武内先生は車の鍵を開けて、助手席に乗り込むように優しく促してくれた。
その時、初めて先生の顔を見た。
先生は目に涙を浮かべて、眉間に皺を寄せて難しそうな表情をしていたのだ。
「…………」
荷物を後ろに置いて、先生も車に乗り込む。ハンドルに掛けてあったハンドタオルで額の汗を拭っていた。
その様子を眺めながら、私はようやく思っていた言葉を声にする。
「た……武内先生。本当にごめんなさい。迷惑ばかり、本当に、ごめんなさい……」
消え入るような声で呟くと、先生もこちらを向いて言葉を発する。首を横に振りながら、優しい表情で……。
「……謝らないで。柊木さんは悪くない。ただ……君の両親はおかしいよ。どう考えても理解できないし、普通は有り得ない」
ハンドルに顔を埋め、小さく溜息をつく先生。
揺れ動く瞳から、一筋ほどの涙が零れ落ちたのを私は見逃さなかった。
行き場の無い私。
取り敢えず車の中で先生と話し合って、今日のところは駅前にあるビジネスホテルに宿泊することにした。
費用は先生が出してくれると言ってくれて。
これがまた申し訳なくて、自分への嫌悪感が募る。けれど現実問題、私にはどうもできない。
「……昼休みに君の両親と話したばかりなのに。夜にはこうなるなんて、想像もしていなかったよ。あの時は自分の会社で働かせるから学校を辞めさせるんだと騒いでいたけど、どうして今度は家から追い出すような真似を……」
「……」
コインパーキングを出て車を走らせる武内先生。その小さな呟きに対して、私は何も答えることができなかった。
もう、何も考えたくない。
誰からも必要とされない私なんて、本当に何の為に生きているのか分からない。
現実問題、継続して学校に通うのも難しいだろうし。
本当に。
本当に、もう……。
「もう、私なんて死ねばいい……」
やり場のない感情は、自殺願望へと変わる。
それでも、やっぱり出てこない涙。
だけど辛くて、苦しくて、もうどうしようもない。
「……ねぇ、柊木さん。ご飯食べた?」
「……いえ」
「そう」
それだけを確認し、無言になった武内先生。
車は最寄りのコンビニへと入って行き、慣れた手付きで駐車をする。そして先生は「ちょっとだけ待ってて」と言って、お店の中へ入って行った。
少しだけネオンライトが遠退いたこの場所。
窓越しに空を見上げると、少しだけ星が見えたような気がした。
あの星になれたらいいのに。
またそんな現実逃避をしながら、大人しく先生を待つ。
しばらく呆然と窓の外を眺めていると、袋いっぱいに物を買いこんだ先生が出てきた。
その袋を抱えたまま車に乗り込んだ先生は、こちらを見て少しだけ微笑んでくれる。
「いっぱい買ってきた。ホテル向かう前に、どこかで食べよう」
「……」
また車を動かし、場所を移動させる先生。
向かった先は海浜公園で、そこの駐車場に車を停めて過ごすことにした。