星降る夜に、あのラブソングを。
「…………」
目を覚ますと、眩しい朝日が視界に入り込んできた。
昨日、親に家を追い出されて……行き場が無くて……。
警察に補導されて、武内先生が来て……。
その後、どうなった?
「……あっ、柊木さん」
「……武内先生……?」
「良かった、目覚めた……。おはよう」
「お、おはようございます」
ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
見たことのない部屋に顔をキョロキョロと動かしていると、武内先生は優しく頭を撫でて微笑んだ。
「ごめん、ここは僕が住んでいるアパートだよ。昨日、柊木さんにはビジネスホテルに泊まってもらうように手配しようとしたけれど、その前に君の意識が無くなっちゃって。体を揺すっても目覚めなくて、でも呼吸は普通で眠っているような感じだったから。ここに連れて来させてもらったんだ」
「……そ、そんな。も、申し訳ございません」
「僕は大丈夫。むしろこちらこそごめん」
先生は立ち上がり、コップに汲んだお茶を持って来てくれた。
良く冷えている冷たいお茶を受け取り一気飲みすると、何だか頭がスッキリとするような感覚がした。
少し部屋を見回し、朝日が差し込んでいる窓に目を向ける。
「……」
ていうか。
朝日っていうか……。かなり陽が昇っているような……。
「……えっ、待って先生。学校は!?」
「今日は有給で休みを取ったよ。柊木さんも休み。『サクラ学級』は休日」
「そんな……私、とことん先生に迷惑を掛けてしまっています。本当に申し訳ございません」
「大丈夫だって。もう、謝らないでよ。柊木さんは悪くないのだから」
「……」
ニコッと優しく微笑んだ先生は「そこでゆっくりしていてね」と言葉を残し、部屋から出て行った。
「……」
制服のままの私。ぼさぼさの髪の毛。
布団の脇に置かれているボストンバッグと通学鞄。
そう言えば、昨日勢いで持ってきたボストンバッグの中身をまだ見ていない。
私は少し体を動かし、バッグのチャックを開けた。
中に入っていたものは、最低限の私服、下着、制服の洗い替えと夏服、体操服やジャージ、タオル、その他学用品。そして、私の銀行口座の通帳と印鑑と……分厚い封筒。
「えっ」
恐る恐る分厚い封筒に手を掛け、中身を見る。
その中にはなんと……大量の1万円札が入っていた……。
「えっ、えっ、え……?」
「柊木さん? どうしたの」
「せ、先生……」
私の声に驚いた様子で飛んできた武内先生に封筒を見せた。その中身を見た先生は、大きく溜息をついて眉間に皺を寄せる。そして「本当に最低だな」と小さく呟いて、頭を少しだけ下に下げた。
「……こんなこと、君に言いたくないけれど。手切れ金のつもりだと思う」
「手切れ金……?」
「うん。金払うから、絶縁ねってこと。……とはいえ法律上、親子間では手切れ金による清算はできないんだけど」
「……」
「そのくらい本気だと言う、意思表示なんだと思う」
「……」
こんなところで、親の本気度を知りたくなかったかも。
封筒の中の1万円札は、綺麗な紙の帯で丁寧に巻かれていた。それを見た先生は「1束100万円」とまた小さく呟き、溜息をつく。
100万円の手切れ金。
その重みは、ただただ虚しく、何だかとても冷たく悲しかった。
その後、先生は私に美味しそうな食事を作って食べさせてくれた。
料理が得意な先生による、特製朝ごはんプレート。
真っ白なお皿の上に、スクランブルエッグやサラダ、トーストなど、お洒落に盛りつけられた温かい食事に思わず涙が滲み、そして零れ落ちる。
「……先生、美味しいです。温かいご飯、何年ぶりでしょう」
「そんなに久しぶりなの?」
「朝と夜のご飯は用意されていましたけれど、いつも冷え切っていました。私にはレンジも使わせて貰えなかったので、温かいご飯なんて……」
そこまで言って、言葉を継げなくなった。
悲しい。悔しい。虚しい。
ポタポタと零れる涙を、先生はタオルで優しく拭ってくれる。
その手がまた優しくて、余計に涙が零れ落ちた。