星降る夜に、あのラブソングを。
「柊木さん、ドライブ行こうか」
「……ドライブ?」
「今後どうするか、外でも眺めながらお話しよう」
「……はい」
先生の部屋でシャワーを借りて、ボストンバッグに入っていた私服に着替えた。
そして先生の車に乗り込み、宛のないドライブに出かける。
「良い天気だね」
「そうですね……」
太陽の光でキラキラと輝く海。眩し過ぎて、何だか心がモヤモヤとする。
ラジオから流れる切ないラブソング。
それが妙に心に響き、何だか涙が滲んでくる感覚がする。
恋愛なんてしたこともないのに、ラブソングが響くなんて。私の心、どうかしているよ。
「柊木さん、この曲を歌っているバンドのこと知ってる?」
「……すみません。私そういうの詳しく無くて……全くです」
「そうなんだね」
少しだけボリュームを上げて、そのラブソングをより聞かせてくれた。
切ないと思ったけれど、温かさもあるその曲。
どうやら『Crazy Journey』という男女混合の有名な5ピースバンドが歌っているらしい。
初めて聞くバンド名と曲だけど、良い歌だなと率直に思えた。
「英語担当で軽音部顧問の内山先生が居るでしょ。内山涼華先生」
「あ、はい……」
「その内山先生が所属していたバンドだよ。『Crazy Journey』って」
「え、うそ」
1年2組の授業が終わると『サクラ学級』まで『今日のまとめ』を持って来てくれる内山先生とは、たまに雑談をしたりする。
そんな内山先生が大学時代から所属していたバンド。
教師になった内山先生はバンドとの両立ができなくなり脱退をしたらしい。内山先生が抜けたバンドは、新たなメンバーを募集した後、メジャーデビューをして……今では有名なバンドになっている。
「僕、内山先生と仲が良いから色々話すんだけど。……悔しがっていたよ。めちゃくちゃ悔しかったって。たまに凄く感情的になることがあるんだ、彼女。数年経った今でも。彼女は悔やみ、哀しみ……苦しんでいる」
「……」
「人は誰しも、何かに悩み、苦しんでいる。死にたいと、衝動的に感じるくらい」
「……」
意味深な言葉を発する武内先生の横顔を静かに眺める。
先生のその表情からは、今の感情を読み取ることはできなかった。
「……さて、柊木さん。今後のことだけど……」
「あ、先生。待って下さい」
「え?」
「私、考えたのです」
「……何を?」
実は、今朝起きてからゆっくりと考えていたことがある。
私のこれから。
目先は、児童養護施設への入所だ。
「先生は、私の親が育児放棄したと児童相談所に通報して下さい。そうして保護してもらい、私は児童養護施設にでも入所する方向で話を進めたら良いのです。それが1番簡単ですし、先生にも迷惑が掛かりません」
「え……」
「警察に補導され、先生が迎えに来てくれたこと、とても嬉しく思います。朝ご飯も美味しかったし、何より先生と一緒だと落ち着きます。だけど、先生にこれ以上のご迷惑はかけられません。家を追い出されて自立もできない私は、そういう施設に入るのが最善なのです」
「……」
先生は運転をしながら、横目で私の顔をチラチラと見ていた。
驚いた表情……というのが正解だろうか。そしてそこに悩みも混ざっているような。そんな表情。
「…………」
先生は何も言わなかった。
せっかくの意見に、先生は何も言ってくれない。
何も言わないまま……車を走らせ続ける。